ザ・クインテッセンス 2019年9月号
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患者情報患者:42歳,女性主訴:右上が痛い.奥歯で咬めず,また,上の前歯の見た目も気になるので,全体的な治療をしたい.歯科既往歴:10年前に上顎前歯の歯列不正を補綴で改善する治療を受けた.歯科医院は数年ぶりの来院.喫煙歴:なし口腔内所見 初診時,痛みの原因である₆は,口蓋側に歯肉縁下,さらに根分岐部に達するう蝕を認めたため保存不可と判断した.口腔内清掃状態はやや不良で,とくに歯頸部のプラーク付着が顕著であった.主訴の1つである上顎前歯は,唇側および口蓋側の歯頸ラインの不揃いから,下顎前歯同様に叢生があったと推察される.₇₆,₇は欠損しており,また,₇は欠損の長期放置により挺出が生じていた.咬合関係は左右ともにAngleⅠ級,顎関節の疼痛,開はじめに 歯科臨床を行う場合,さまざまな見地から必要な治療戦略を選択し,個々の患者に対する最善の治療を組み立てていく.そのなかで補綴治療は,「ここまでは補綴前処置,ここからは補綴治療」と線引きして臨床を行うわけではなく,一連の精確な作業のうえにその成功があると考える.治療成績を大きく左右する最初のステップである補綴前処置は,「前処置」という言葉の括りでは言い表せないほど,包含する作業が非常に多い.しかし,正確な検査・診断から導いた処置を1つひとつ適切に行うことで,口腔内環境が健全に整備され,治療の長期的な安定と審美的な結果をもたらす. 本稿では,全顎的治療を行ううえで,補綴前処置として部分矯正を用いて患者の審美的要求に応えた症例を提示し,審美修復を成功するために必要な補綴前処置について再考する.New Essence:the Debut若手歯科医師・投稿欄 本欄ではエビデンスに基づいた患者本位の医療,最小の侵襲で最大の効果を得るという考え方に則った治療に重点を置き,患者のための真の医療とは何かを明らかにしていく.矯正的挺出により,歯頸ラインを揃えた全顎症例青木隆宜キーワード:全顎的治療,補綴前処置,部分矯正A Case of Full Mouth Reconstruction Focused on the Alignent of the Gingival Line with Orthodontic ExtrusionTakayoshi Aoki 2004年に福岡歯科大学を卒業した後,榊恭範先生(福岡県開業,さかきデンタルオフィス)に師事し,2015年,あおき歯科クリニック(福岡県福岡市)開業.北九州歯学研究会,歯達会所属. 「全顎的な治療は1本1本の歯の精密な治療の積み重ねのうえに成り立つ」と考え,日々の臨床に取り組んでいる.福岡県開業 あおき歯科クリニック連絡先:〒813‐0016 福岡県福岡市東区香椎浜3‐2‐7172the Quintessence. Vol.38 No.9/2019—1988

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