ザ・クインテッセンス 2020年1月号
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59the Quintessence. Vol.39 No.1/2020—0059 MTAの登場をきっかけとして歯髄温存療法(Vital Pulp Therapy:以下,VPTと略)が再び注目されている.VPTに関する研究は古くから行われており,VPTという言葉は1950年代にすでに登場している1.近年は大がかりな補綴治療が減少するとともに,1本の歯を大切にする時代になったことに加え,MTAの登場が世界中の歯科医師に「歯髄が保存できること」を気づかせた.また,VPTに関する研究がここ数年非常に多く行われて情報が増えたことから,European Society of Endodontology(ヨーロッパ歯内療法学会:以下,ESEと略)がVPTに関するポジションペーパーを発表し,現在のVPTに関する情報をまとめようとした2.ESEのポジションペーパーでは用語の定義,疾患の分類,診断や治療方針の推奨について記載されているが,エビデンスはまだ不足しており,これだけでは日常臨床の疑問は解決しない.ポジションペーパーとは学会のエキスパートの意見をまとめたものであり,エビデンスピラミッドではいちばん下に位置する. ESEのポジションペーパーにおいてもっとも注目したいトピックスのひとつが断髄である.これまで歯頸部断髄は主に乳歯や根未完成歯に行われる治療であり,永久歯の適応症でないと考えられてきた.1.歯頸部断髄とは 歯冠部の歯髄をすべて除去して根部歯髄を保存する方法を,日本では断髄,海外ではcervical pulpotomy(歯頸部断髄),full pulpotomy(全部断髄),たとえばAmerican Association of Endodontists(米国歯内療法学会)のGuide to clinical endodonticsにおける適応症は乳歯の不可逆性歯髄炎,永久歯根管治療の救急処置,アペクソジェネシスのための暫間処置(臨床症状がないもの)であり3,日本歯内療法学会のガイドラインにおける断髄の適応症は,「1)乳歯における生活歯髄の露髄または乳歯の不可逆性歯髄炎.ただし,後継永久歯に傷害を与えるような根未完成の乳歯,内部吸収のある乳歯,根分岐部に穿孔のある乳歯,または根尖病変を有する乳歯の断髄処置は望ましくない.2)永久歯で,非外科的歯内療法が行えるようになるまでの応急処置.3)永久歯で,未完成の歯根が完成するまでの暫間的処置」4となっていることからも,それが伺える. しかし,今回のESEポジションペーパーにおいて,永久歯における不可逆性歯髄炎の治療オプションのひとつとして歯頸部断髄が掲載された.その一方,今回ESEで示された歯頸部断髄のガイドラインはあくまで臨床の指針を示すものであり,質の高い研究が必要であることも述べられている.本稿では,今わかっているエビデンスと限界,筆者の臨床経験に基づく臨床アイデアについて述べたい.pulp chamber pulpotomy(髄床底での断髄)と表記されることが多い.海外では,露髄した場合は歯髄の一部(1~2mmの深さ)に断髄がよく行われており,partial pulpotomy(部分断髄),shallow pulpotomy(浅い断髄),またはCvek pulpotomy(Cvek断髄)と呼ぶ.断髄という表記では歯冠部全部を除去する方法とはじめに科学編

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