ザ・クインテッセンス2020年8月号
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71the Quintessence. Vol.39 No.8/2020—1865「the Debut」掲載症例のサマリー:症例1症例の概要と経過 患者は16歳の女性,₁の外傷による脱離を主訴に来院した(図1).患者は部活動中に相手の頭がぶつかり,歯冠側破折片の著しい位置異常をともなう歯根破折を生じた.歯冠側破折片が口腔内に保存された状態で約20分経過して前歯科医院に到着し,そこで歯冠側の破折片が抜去され,ビニール袋に包まれた状態で約15分後,当院に来院した. インプラントとブリッジという選択肢もあったが,患者の年齢,希望を考慮して再植を行い,歯根破折歯の治癒を期待した(図2).この時点では歯根膜の治癒と歯髄の治癒の両方を期待していたが,歯髄の治癒は得られなかった.歯冠側破折部のみ根管治療を行おうとしたが,根尖側破折部にも水酸化カルシウム製剤が到達し,両破折片の歯髄を除去する結果となった.歯根膜の治癒については,術後1か月のブロービングの深さは2〜3mmであり,再付着により歯根膜の治癒は得られた(図3).6か月後,歯冠側破折片の水酸化カルシウム製剤を除去してアペキシフィケーションを確認し,MTAによる根管充填を行った.しかし,その後MTAが褐色になり歯冠の変色を生じたため(図4),歯冠部のMTAのみ除去し,コンポジットレジン(CR)で修復を行った.しかし,わずかに歯冠色が暗くなってしまった. 2か月3週間後,初診時に行ったワイヤーと接着性レジンによる固定を外した.しかし,その後わずかな外傷歯の挺出と唇側傾斜が起こったため,接着 「the Debut」掲載症例の経過報告の依頼をうけ,当時の掲載原稿を久しぶりに見ると,もう10年も経ったのかという思いと同時に,未熟ながらも患者のための治療をしたいという思いで,日々知識と技術の習得に取り組んでいたことを思い出した.内容は未熟で,恥ずかしく感じる部分が多々あったが,患者のためにという気持ちは変わっていない.また,10年という月日は自分の臨床を大きく前進させたとも感じた. 外傷歯治療は日常臨床で行う頻度が低いため,ともすると軽視されがちである.しかし,若年者の前歯に好発するため,一生の審美と機能を左右し,治療結果が患者QOLに大きく影響する1.また,外傷歯治療から感染のない場合の生体の治癒を学ぶことができるため,エンド,ペリオ等,その知識はあらゆる歯科治療に生かすことができる.「the Debut」掲載症例は,筆者が生体の治癒を学ぶ過程で出会った症例であり,ベストな選択ができていなかった.しかし,この症例を通じて歯髄と歯根膜の治癒について学び,患者QOLにとってベストな治療方針とは何かを考えさせられた. 2019年現在,受傷後15年が経過しており,患者はメインテナンスに通っている.症例の経過を報告するとともに,当時の診断と治療方針を振り返りたい.「the Debut」掲載時を振り返って▲2009年6月号掲載「脱離をともなった歯根破折歯の治療のゴールと治療方針」より.

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