ザ・クインテッセンス2020年12月号
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55the Quintessence. Vol.39 No.12/2020—2837について述べている.拡大療法(主に急速拡大)における鼻腔や気道の体積・面積の増大効果については,その後も多くの調査結果が報告がされている4~12. 上顎牽引も上顎拡大も,両方とも狭義では限局した領域の拡張であるが,併用することで,その範囲は顎顔面領域の広い領域に及び,術後で上気道が増大したとの報告は多い13~15.しかしながら,副鼻腔全般に関する記述はなく,本稿では,上顎牽引と拡大との併用によって,副鼻腔を開放する可能性について述べたい.1.口呼吸と副鼻腔炎 近年,呼吸様式が頭蓋顔面骨格に影響することが明らかになり16,17,口呼吸はとくにこの領域の成長に悪影響を及ぼすことが鼻科からも報告されている18~20.こういった報告のなかで共通していることは,上下顎の劣成長で,とくに下顎の後方回転をともなう後方位と顔面高の増大は共通した指摘である.これは鼻気道閉塞が異常な顔の成長に関連しているという主張を裏づけている. FaridとMetwalli21は,口呼吸を有する子どもたちの現症を調査した.症状の大きい順に,アデノイド肥大の87%が一番多く,つぎに上顎洞炎77%,中鼻甲介の気腫74%,鼻中隔湾曲55%,甲状腺肥大55%,篩骨洞炎45%,前頭洞炎23%の順であったと報告した.彼らは,副鼻腔炎の子どもが必ずしも呼吸様式が口呼吸になるのかどうかの判断は困難であると述べ,冷たく乾燥した空気を吸い込むことは,気道粘膜の炎症の引き金となり,この吸気スパイラルの悪循環に陥ると,副鼻腔炎を起こしたり長引かせたり,慢性化の原因になるとも考えられ,口呼吸の子どもにみられる炎症性の変化は結果であり,原因ではないのかもしれないと述べた. Kimら22は,FaridとMetwalliのサンプルの条件と異なる長引く副鼻腔炎を認め,薬物療法に耐性を示した子どもを対象に調査したところ,篩骨洞の前方に位置する前篩骨洞炎と後方に位置する後篩骨洞では,それぞれ91.1%と68.1%の口呼吸の発生率を認めたと述べた.Kimらの報告は興味深く,鼻科のガイドラインでは23,副鼻腔炎の定義を鼻閉や鼻漏,臭覚障害をともなう膿性の鼻茸を認め,画像検査で同部位に陰影を認める疾患としている.また,罹患期間が1~3か月を亜急性,3か月以上を慢性と定義している.いずれにしても,副鼻腔炎と口呼吸は高い確率で関連していることが推測され,長引く副鼻腔炎を有して口呼吸が常在化している子どもは,この部位の開放が重要であることが推察される.用でか?用でか?

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