ザ・クインテッセンス2021年1月号
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はじめに 口から不自由なく食べられることは,生活の質を保つうえで重要であり,われわれ歯科医療従事者の責務は,そのような患者の願いを叶えるために最善を尽くすことにある.また,無歯顎患者の高齢化にともない,その有病者率も増加している.このため,総義歯製作途中で全身疾患に罹患し,その製作が中断してしまうことや,適合の良い義歯を装着していたにもかかわらず,「病気に罹患したために顎が痩せて義歯が合わなくなった」と訴えられて,義歯を修理することもある1~4. しかし,こういった場合でも不適合になった原因が実は歯槽骨の変化ではない場合も多い.とくに,機能障害を抱えた有病高齢者の場合,顎堤形態や顎関節部周囲組織の機能に加え,摂食嚥下機能を確かめながら総義歯を製作する必要がある. 今回,摂食嚥下障害を認める重度顎堤吸収と下顎前方偏位の難症例に対して,主病態の変遷のなかで摂食嚥下評価を行い,食形態の指導,口腔機能訓練と,その機能に即した義歯型PAP(舌接触補助床)5,6の製作を行った結果,機能を良好に回復したため報告する.患者概要 初診時74歳の男性.既往歴は20年以上前に交通事故で頸椎を損傷し機能的障害を負っており,首の可動域が狭い.身長165cm,体重42kgと痩せている.食事量は少ないが,初診時での現病歴はない. 約20年前より無歯顎となり,総義歯を装着していたが,継続的に義歯性潰瘍と咀嚼時の疼痛が続いた.そのつど歯科医院には通院し,何度か義歯製作を繰り返していたが,改善には至らなかった.患者は鉄鋼所を経営しており,疼痛時には手持ちの切削機械でみずからの義歯を切削していたが,これでも痛みの改善には至っていなかった(図1a~d). 今回,義歯不適合と食事量の減少による体重の減少,咀嚼能率が悪いため食事に時間がかかるとのことで来院した.五十嵐尚美Manufacture of Complete Denture Type PAP with Swallowing EndoscopeNaomi Igarashiキーワード:嚥下内視鏡,舌接触補助床,治療用義歯,アテローム血栓性脳梗塞,筋ジストロフィー栃木県開業 いがらし歯科イーストクリニック連絡先:〒321‐0932 栃木県宇都宮市平松本町1125‐6嚥下内視鏡を活用した機能評価と,その診断に基づく総義歯型PAP(舌接触補助床)の製作200the Quintessence. Vol.40 No.1/2021—0200

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