ザ・クインテッセンス2021年1月号
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53the Quintessence. Vol.40 No.1/2021—0053材料の進化にともなう支台歯形成の変化 装着されたクラウンの歯頸部周囲の歯肉色をより審美的にする目的で,古くはクラウンのマージン部分にはポーセレンマージン法(カラーレスマージン法)が用いられた.そしてその際はその部分の強度を上げる目的で,唇側面はディープシャンファーもしくはラウンデッドショルダーにて歯肉縁下にフィニッシュラインを設定するが,すると歯質の削除の量が多くなるという問題点があった. その後,昨今注目されているジルコニアが登場した.ジルコニアはメタルのように硬い材料でありながら歯冠色を呈するため,メタルセラミックスのようにフレームの金属色をマスキングする手間が不要であると思われたが,初期のジルコニアはまるでチョークのように不透明で,審美的な補綴装置を製作するうえでは必ずしも有利に働くとは限らなかった.しかし最近は色調の選択肢も増え,前歯部では光透過性が高いものが使えるようになり,さらにフレームの厚みが約0.3mm程度でも強度的に問題ないといわれている.そのため,支台歯の色に問題がなければ,それを透過させることもでき,そのマージン部分においてはポーセレンマージンではなく,ジルコニアのマージンで十分可能だという流れになってきている.すなわちフィニッシュラインの形態もラウンデッドショルダーにする必要性もなくなってきたといえる. そんな折,2013年の「European Journal of Esthetic Dentistry」誌に興味深い論文5が掲載された.イタリアで開業しているDr. Ignazio Loiが提唱する“Biologically Oriented Preparation Technique”(以下,BOPT)である.BOPTとは,生物学的な支台歯形成の手法であり,歯肉縁下にマージンを設定する際のフィニッシュライン形態の処理方法である.Loiらの論文ではマージンフィニッシュを完全に移行的に仕上げており,筆者としては印象採得をしてもマージンが明瞭にとれているか不安をおぼえるが,一方で生物学的に許容できる補綴装置のマージンを模型上で任意に設定できるメリットもある.Loiも,「フィニッシュライン」とはいわず「フィニッシングエリア」と表現しているが,その点を意識したことがわかる. この論文に興味をもった筆者は,クインテッセンス出版に翻訳を打診し,翌2014年の「QDT」誌6に掲載された翻訳論文に解説文を寄稿した.その後,実際にLoiのオフィスまで行って直々にコンセプトを聞いてきた(図1,2).図1 2014年,Dr. Loiに会いに歯科技工士の土屋覚氏とイタリアを訪問した.図2 BOPTのコンセプト.Dr. Loiのセミナー資料より引用・改変.Chamfer preparationVertical preparationTHE CONCEPTThe vertical preparation was born as an open surgical treatment of periodontal dis-ease. The innovative approach of Dr. Loi was to adapt the treatment to periodontally healthy teeth and to perform a controlled invasion of the sulcus without opening the flap.

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