ザ・クインテッセンス2021年2月号
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59the Quintessence. Vol.40 No.2/2021—0317け入れる歯槽堤の大きさとのディスクレパンシーにある.自然にきれいな永久歯列を獲得する子どもたちの共通のパターンは,上下切歯交換期に4前歯がきれいに排列しているということがわかっている. 筆者が行っている拡大床治療の目標は,この上下切歯交換期のうちに4本の永久切歯がきれいに並ぶように歯槽堤を拡大しておくということにある. この拡大床治療を1つの治療法として成立させるためには次の7つの要素がはっきりしていなければならない.①適応症②開始時期③装置の設計④使用法⑤調整法⑥いつまで続けるのか⑦その後どうしておくのかまず,これらのことがはっきりしていないなかで行った拡大床治療を紹介し,そこから得られた反省点から考えてみたい.症例 上下4前歯が萌出し,叢生が明らかになった9歳6か月の女児.拡大床治療を始めたが,4前歯がきれいに排列する前に側方歯群の交換が始まってしまった.開始から2年後には4前歯がきれいに排列しているが,その後も拡大を続けていった.2年半後にはスペースが十分になり,余裕をもって歯が排列できるまでになったので,拡大床装着を終了した. その後はリンガルリテーナーを前歯部に接着して治療を終了した.しばらく来院しない時期もあったが,20歳になって来院した時には上顎のリンガルリテーナーは脱離し,中切歯にズレが出てしまった. 原因は後戻りで歯列が若干縮小してしまったことによると思われたが,再度拡大するよりも,わずかにディスキングするほうが簡単なので,マウスピースを併用して改善している.治療期間中は患者も真面目に取り組んでくれたが,治療の進め方としてどこに問題があっただろうか.前述の7つの要素について考察してみる.適応症と開始時期について(図1) 上下4本の切歯が萌出しているが,乳犬歯間にきれいに排列しておらず,そのまま叢生になっていく可能性が高い.叢生の原因に習癖がかかわっている場合には,拡大床治療だけで改善するのは難しい.この症例では習癖はなかったので,拡大床治療の適応症であったと考えられる.

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