ザ・クインテッセンス2021年4月号
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43the Quintessence. Vol.40 No.4/2021—0813図1 天然歯の唇側骨は1mm以下と薄くても歯根膜からの栄養供給により維持されている.一方で,インプラントの唇側骨への栄養供給は骨膜と骨髄からのみであり,その安定的な維持には2mm以上の厚みが必要とされる.1.今日の歯槽堤保存術 歯槽堤保存術(alveolar ridge preservation:ARP)とは,「抜歯後の変化として生じる歯槽堤の硬・軟組織の吸収にともなう体積の減少を抑制する処置」のことを指し,この中には骨補填材を抜歯窩に填入する処置を指すソケットグラフト(socket graft)や,吸収した抜歯窩壁の増生術(ridge augmentation of extraction sockets)などのより細分化された語句が含まれるが,本稿においてはこれらをまとめて歯槽堤保存術という語句に統一している.語句補足説明たい.そのうえで,本邦において,国内承認材料を用いて歯槽堤保存術を行うにあたり,どの材料の組み合わせがより効果的な結果につながるかについても探っていく.そのなかで,「抜歯と同時に歯槽骨を増生する(GBRを行う)」ことを目的として筆者らが用いている,「強化フレーム付きTiハニカムメンブレンを用いたオープンバリアメンブレンテクニックの可能性」についても言及したいと思う. 前述したように,抜歯後の歯槽骨吸収は時に深刻な状況を生み出す.審美領域の唇側骨の厚みはほとんどの部位において1mm以下で,かつ,約50%においてその厚みは0.5mm以下であるとされている(図1)1~3.そして,唇側骨板の構成要素に含まれている束状骨の厚みは0.2~0.4mmと,唇側骨の厚みと近似している4.また,束状骨は栄養供給を歯根膜に依存しているため,抜歯にともなう歯根膜の喪失によって束状骨は吸収すると考えられている5.すなわち,審美領域における抜歯は,唇側骨の大部分を占める束状骨の吸収を引き起こすため,結果として唇側骨の大きな吸収につながるものと理解できる6. 一方,インプラント補綴装置装着後の辺縁軟組織の退縮を抑止するためには,インプラントの唇側では2mm以上の厚みの硬組織が必要とされている(図1)7,8.したがって,抜歯前の時点から唇側骨板にある程度の骨吸収が存在する部位では抜歯によってさらなる骨吸収が引き起こされるため,そのような部位にインプラントを埋入し,経年的にも安定した結果を得るには強化フレーム付き非吸収性メンブレンなどを用いた大規模なGBR(症例1,2)を行う必要が生じることが多い.近年,メンブレンや骨補填材の材料学的な改良と,生体反応の理解に立脚したフラップの取り扱い技術の向上にともない,垂直的な増生を含むGBRの成功率は向上してきている9(表1).しかしながら,患者への肉体的・精神的な負担や術式の難易度を考慮すると,大規模な2mm以上の唇側骨1mm以下の唇側骨

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