ザ・クインテッセンス2021年4月号
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から始める83the Quintessence. Vol.40 No.4/2021—08531.舌小帯切除の目的 乳児期の舌小帯切除の目的は,舌の可動範囲を広げて口腔の健全な発育につなげることにある.母乳マッサージの先生からの紹介で受診するご家族は,授乳に問題を抱えて来院するため,短期的な目的は哺乳の改善になる.しかし,舌の低位からくる上顎の劣成長や開咬,舌の運動制限による発音障害などのリスクの軽減も将来の目的として重要だと思っている(図1).1)哺乳時におこる問題 乳児の舌小帯に形態異常があり,舌の運動制限がある場合,まずは哺乳に症状がでる.正常な哺乳では乳児は自分の舌を母親の乳房をしごくように動かし,舌背と口蓋で乳房を挟んだ状態から舌の蠕動運動によって乳汁を分泌させる.そのため,舌根部がうまく挙上できないと乳汁を分泌させる力が不足することになる. また舌尖が舌小帯によって固定されている場合,舌を上手に巻き付けられないので,舌と乳房の間に隙間ができて空気を多く飲み込んでしまう.体内に空気を多く取り込むと,乳汁の吐き戻しやおならが多くなるなどの様子がみられる.「いつもお腹が張っていて辛そうにしている」とご家族が訴えることもある. ただ,授乳に関してはお母さん側の条件にも多様性がある.長子かどうかなどによってお母さんの母乳の分泌状態も異なるため,母乳を問題なく飲めていて体重の増加が順調であるからといって,舌小帯に問題がないとは言い切れない. 逆に母乳だけでは体重増加が少ない時でも,舌小帯を含む乳児の哺乳にはあまり問題がなく,お母さんの母乳分泌が十分にできていないことが原因だったということもある.そのため,体重増加だけにとらわれず,舌小帯の形態を診断する必要がある.2)発音の問題 発語する年齢以降では,舌小帯の形態,付着位置によって発音に問題が出る.舌の運動範囲に制限があれば,それにともなって発音しにくい音ができ,舌尖の運動制限があれば,サ行,タ行,ラ行などに発音障害がでる.舌をきちんと動かせないまま成長すると,舌の筋力不足になり,破裂音が不明瞭になるケースもある. しかしこのような場合でも,日本語は発音しやすい言語であるのか,日本語では発音時の問題は指摘されずに過ごし,英語のRの発音を学んだ時に,周りと同じように発音できないことからはじめて気づくこともある. 発音障害に関しては,舌の運動範囲,筋力には問題がなく,舌の使い方が原因になる場合もあるので,

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