ザ・クインテッセンス2021年6月号
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33the Quintessence. Vol.40 No.6/2021—1387と大きく異なるわけではないが,患者の個体差や個人差に着目して対応する考え方について症例を通じて説明していきたい.1.患者 口腔 歯 歯周病症例に限らず,症例を全顎的にみるうえでは,患者(個人差),口腔(個体差),歯(一歯単位)の3つの視点でみることが重要であると考えている.どのような処置であっても,結果にもっとも影響を及ぼすのは個人差の要素であり,それはひと言でいえばコンプライアンスの問題ということになる.どんなに自然治癒力が高くても,いろいろな理由で介入が難しければ守れるものも守れない. それについで,結果に影響を及ぼすのが個体差の要素である.これは,ひと言でいえば自然治癒力ということになる.患者の歯周組織が改善しやすいか否か,これはいくつかの要素から予測することが可能である. 個体差をみていくうえで筆者が参考にしているのが,千葉が1995年に提唱した「罹患度・進行性・回復力」の3つの物差しで判断していく見方である1.罹患度は年齢に対する骨吸収量の程度,進行性は歯周組織破壊の進みやすさ,回復力は歯周組織の治りやすさを表す.それぞれ,過去,現在,未来を表していると考えるとわかりやすい.罹患度は,2018年にAAPとEFPよりだされた歯周病の新分類におけるStageを参考にしてもよい.進行性は新分類ではGradeとして付着や骨破壊のスピードや喫煙,糖尿病の程度から判断するが,千葉の進行性の見方では,歯槽頂部歯槽硬線の消失の有無で判断する(消失している場合:進行性が高く,歯周病は進行している状態と判断する). 以上,罹患度と進行性について簡単に説明をしたが,これらは過去,または現在までの状況から判断するものである.過去に起きた進行の速さは憂慮すべき事項ではあるが,過去は必ずしも未来を表すものではないということは,臨床経験をある程度積んだ術者であれば感じていることではないだろうか.そのため,個体差をみるうえでもっとも重要と考えているのが回復力である.回復力は年齢・喫煙・歯肉の炎症の現れ方,糖尿病などの全身疾患の有無などから予測する.それぞれの要素にはプラス要素とマイナス要素があり,プラス要素をポジティブファクター,マイナス要素をネガティブファクターとしてチャートにまとめた3.チャートの上段4つが回復力,下段2つは進行性を示しており,回復力に加えて進行性の要素を合わせて歯周組織の改善しやすさを予測している.ポイント計算をして明確な基準をだしているわけではなく,症例の未来を予測する1つのツールとして考えている.一般的にネガティブファクターが複数ある症例は改善しづらい症例と考えている. 個体差をみる意義はリスクの把握であり,回復力が高くても低くても,歯科治療を行ううえで歯周基本治療は欠かせないステップであり,対応に大きな違いがでるわけではない.ただ,再生療法を行ううえではそういうわけにはいかない.再生療法を選択すれば術者,患者双方にその期待と責任がつきまとう.失敗のリスクが高いことが事前にわかれば,たとえ患者が望んだとしても避けるという選択肢を選ぶべきかもしれない. 以上のように,患者の個体差を把握し,その個体がもつ自然治癒力を見極めたうえで,個人差(患者)の要素に対応したり,一歯単位の問題に対応していくことが大切ではないかと考える.2.まずは歯周基本治療,歯周外科(OFD) 個体差を把握し,回復力が高いと判断できる症例,つまり歯周組織の反応がよいと予測される症例においては,歯周基本治療でも十分な回復が得られることが多い.歯周基本治療においてもっとも重要なことはいうまでもなくプラークコントロールの確立である.プラークコントロールにより歯肉はドラマチックに変化する.そのうえで,適切なタイミン

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