ザ・クインテッセンス 2021年9月号
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the Quintessence. Vol.40 No.9/2021—217539ムーズに対応ができるのである. 少なくとも,筆者の臨床では,診断学の教えがもっとも重要で貴重であったと感じており,診断学教室の恩師たちに今も変わらず感謝している.筆者自身も若い頃は,留学することで初めて触れた「診断学」という基本的な考え方よりも,派手な治療方法に目がいってしまっていたものである.しかし現在では,ほんの小さな治療1つにも「意味」がある臨床を継続していきたいと思っているし,診断学の重要性を,ほんの一部ではあるが本誌上で読者と共有したいと思う. そこで本稿では,どのようなう蝕介入をするかという,典型的な2つの場面においての考え方のステップを以下に述べさせていただくこととした. 1つはう蝕の外科的介入をするかどうかを判断する場面.もう1つは歯髄を取るのか,保存するのか迷う場面での考え方である.そこにはヨーロッパと米国の歯内療法学会における考え方の違いも存在し,興味深くはあるものの,それらの相反する情報が臨床医を惑わすことにもなりかねない.診断の基となるエビデンスについても考えていく. まずは次の症例をご覧いただきたい.図1 2つの診断のステップ.最初のステップは診断学上の意思決定で,次のステップが治療学上の意思決定である.臨床は診断の連続であるといえる.図2 診断学とは個々の臨床判断を決定するためのさまざまな方法を学ぶ学問である.たとえば,臨床判断は術者や患者がもつ医療哲学によっても左右される.生命医学倫理から判断することもできるし,Evidence Based Medicine的考え方から判断することもできる.また,リスクを取るか取らないかで判断するのも1つの方法である.Aの診断がいかに正しくとも,隣接歯の状態など,治療の選択は他の要素に影響される(B)診断学とは,臨床判断を行うために用いる要素・基準等を学ぶ学問である疾患の診断のための診査の過程.疾患の検出→疾患の診断という段階を踏む.治療選択を判断するための過程.治療必要度の診断→治療方法の選択という段階を踏む.たとえば,1本の歯をどのように治療するのかという診断(A)口腔内全体としてはBの判断が正しいとしても,患者の年齢・生活背景などにより,治療をしないと判断することもある「意味のある」臨床のために知っておきたい 診断学!診断学上の意思決定治療学上の意思決定個々の診断治療計画臨床判断診断学医療哲学

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