ザ・クインテッセンス 2021年12月号
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the Quintessence. Vol.40 No.12/2021—295565POINT まずは,その歯が抜歯適応か,また抜歯してよい状態か否かを見きわめる必要がある.後述するが,症状のない智歯の抜歯適応についてはコンセンサスが得られていない1,2.抜歯するリスクだけでなく,長期的な視点での抜歯しないリスクも考慮し,選択しなければいけない.抜歯は炎症のない状態で図1a図1b1)抜歯してよい状態の歯か? 急性炎症症状がある場合の抜歯は禁忌である.そのため,問診や口腔内診査から炎症があるかどうかを判断しなければならない.炎症があると,組織が酸性に傾くため麻酔が効きにくい.麻酔が効かないときの抜歯は,患者に大変な苦痛を与えるため,筆者は極力炎症がない状態で抜歯に臨むようにしている.日常臨床でよく診るのは智歯周囲炎であるが,抗菌薬を投与して消炎を図り,炎症が消失したのを確認することが重要である(図1).筆者は智歯周囲を触診し,圧痛を感じるか否かで,抜歯可能かを判断することが多い.2)抜歯しないリスクをどう考えるか①「症状がなければ抜かなくてもいい」は正しいか? 「症状がなければ抜かなくてもいいですよ」「症状がでたら抜きましょう」患者とこんなやりとりをしていないだろうか.これらは,当院を受診した患者から,よく「前の医院で言われた」と報告を受けるフレーズである.実際のところ,それは正しいのだろうか. 歯根破折,根尖性歯周炎や重度歯周病など,病的な歯は抜歯すべきというコンセンサスが得られてきたが,症状のない智歯の抜歯適応については,依然としてコンセンサスが得られていない1,2.そのため,口腔外科医であっても判断基準をもたず,最終的な判断は歯科医師の裁量に委ねられる.それなら抜歯しないのも正解ではないかと思われる人もいるかもしれないが,筆者はそうは考えていない.もちろん最終的に判断するのは患者本人であるが,長期的な視点で患者の人生における健康を考慮し,抜歯しないリスクを真剣に考えなければならない.筆者図1 a:初診時.b:消炎後.初診時に₈周囲〜頬部にかけて腫脹,圧痛,疼痛を認めた.智歯周囲炎の診断でアモキシシリン1,000mg(分4)/日を5日分投薬し,消炎後に抜歯を施行した.抜歯するかしないかの判断は長期的な視点で

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