ザ・クインテッセンス 2022年5月号_2
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木下俊克福岡県開業 きのした歯科クリニック連絡先:〒802‐0983 福岡県北九州市小倉南区志徳2丁目6‐15‐104 咬合再構成をともなう歯科治療を長期に観察すると,予測したような経過をたどる症例とそうでない症例がある.そして,その両者をあらためて見直してみると,前者は①機能咬合への理解,②機能運動に影響を与える力の存在(態癖やパラファンクション)を考慮して治療やメインテナンスを行っており,後者は元々の咬合崩壊の原因を事前に解決していなかったことに気付かされる. すなわち,予後の良い症例は,炎症の診断とともに上記の2点を考慮して検査,診断を行ったことで,咬合崩壊発症の原因が明確になり,トラブルの回避につながったことを実感している. 本稿では,態癖やパラファンクション等,機能運動に影響を与える“力の存在”を理解する重要性に気付いた症例を提示し,このことを検査,診断に取り入れることの意義について述べる. 以下に述べていく症例は,当院来院の2週間前に「急に噛めなくなった」と訴え来院した患者である.症例の概要とともに,口腔内および顔貌写真を図1a~gに示す.患者:12歳5か月,女性.主訴:「歯が邪魔で,奥歯で噛めない」現病歴:2週間前より.₂,₂のみが咬合し,他の歯が当たらなくなって噛めない.外傷の既往はない.現症:左右の顎関節周囲および咬筋に圧痛が,また開閉口時に痛みあり.開閉口運動時に下顎の変位はなく,最大開口は25mm.クリックおよび関節雑音は認めず.診断:顎関節症Ⅰ型(咀嚼筋障害).原因の推察:外傷の既往がなく,2週間前は症状がなかったとのことから,発症原因として生活習慣での下顔面にかかる力の存在を疑った.Toshikatsu Kinoshitaキーワード:力,機能運動,態癖,パラファンクションConsideration of Force as the Influential Factors for Mandibular Movement:the Affection of Abnormal Habit and Parafunction to Mandibular Position160the Quintessence. Vol.41 No.5/2022—1136はじめに1.急に噛めなくなった原因を紐解く機能運動に影響を与える力を考える─態癖とパラファンクションが下顎位に与える影響について─

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