新聞クイント2018年4月(お試し版)
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2018年4月10日(火) 第268号2 今月のニュース社 会オーラルフレイルを提唱する研究者飯島勝矢東京大学高齢社会総合研究機構教授 2月24日(土)、ホテルニューオータニ(東京都)において、大久保満男先生旭日重光章受章祝賀会(発起人代表:箱崎守男氏)が盛大に開催され、全国各地より約250名の関係者が参集した。本祝賀会は、2017年11月、保健衛生功労の功績によって旭日重光章の栄誉に浴された大久保満男氏(元日本歯科医師会会長、静岡県開業)を祝うために、有志が企画したもの。 発起人代表である箱崎守男氏(元岩手県歯科医師会会長)の開会の辞でスタートした会は、三師会会長をはじめ、各界の著名人が祝辞を披露。笹川陽平氏(日本財団会長)、武見敬三氏(参議院議員)、辻 哲夫氏(東京大学特任教授、厚生労働省元事務次官)、大島伸一氏(国立長寿医療研究センター名誉総長)、山口 建氏(静岡県立静岡がんセンター総長)など、それぞれが大久保氏とのエピソードを交えながら1時間以上を要するほどの心のこもったお祝いの言葉が贈られた。 大久保氏は謝辞の中で、今回の受章のきっかけにもなったという48年にわたる歯科医師会の活動について回顧。まず、静岡市歯科医師会理事として市行政とともにう蝕予防のための公衆衛生活動に尽力したこと、つぎに平成元年からスタートした「8020運動」には静岡県歯科医師会専務理事として、そして平成18年から9年間、日本歯科医師会会長として、歯科医療を「生きる力を支える生活の医療」と掲げ、歯科界発展のために組織のあるべき姿について追求してきたことなどについて触れ、最後に、今回の受章のみならず多く仲間との出会いに感謝の意を示した。 当日は大久保氏の誕生日ということもあり、氏は一段とにこやかな表情になっていた。日歯の歴代役員、各界の著名人が全国各地から集う大久保満男先生旭日重光章受章祝賀会謝辞で笑顔を見せる大久保満男氏。オーラルフレイルをより広く周知・普及させるチャンス 2017年11月、老年学の国際誌『ジャーナル・オブ・ジェロントロジー』に、オーラルフレイルと死亡リスクに関する論文が発表され、メディアから注目を集めたことは記憶に新しい。調査結果をまとめたのは飯島勝矢氏(東京大学高齢社会総合研究機構教授)の研究チームである。オーラルフレイルの提唱者である医師・飯島氏が歯科医療従事者に伝えたいこととは――。飯島:今回の論文は、2012年から2016年の4年間にわたり千葉県柏市で行った65歳以上の2,011名を対象とした大規模調査(柏スタディ)をまとめ、オーラルフレイルの概念を検証した内容となっています。口腔機能は10項目以上のチェック・解析の中から①残存歯20本未満②咬合力低下③滑舌の衰え④舌圧低下⑤噛めない食べ物の増加⑥わずかなむせ――の6項目に注目し、3つのグループ(3項目以上、1~2項目、ゼロ)に分けて検証しました。検証結果では、3項目以上のグループはゼロのグループと比べて要介護のリスクが2.35倍、死亡リスクが2.09倍となりました。4年間という短い期間にもかかわらずこの結果が出たということが大きなポイントです。 共同研究者である田中友規先生とともにオーラルフレイルに関するエビデンスを示すことができたことは、とてもうれしく思っています。歯科界にとっても8020運動をさらに発展させるための新風を吹き込むのではないかと期待しています。論文掲載後、テレビや新聞などのメディアにいち早く取材していただきましたし、歯科医療従事者以外の医療職の皆さんにも非常に関心をいただいていますので、オーラルフレイルをより広く周知・普及させるチャンスだと感じています。 オーラルフレイルの域に入っているかどうかを定期的にチェック・管理し、メインテナンス後の評価まで行うためには、やはりかかりつけ歯科医をもつ必要があるわけです。また、日本老年歯科医学会が提案してきた「口腔機能低下症」(編集部注:「口腔機能低下症に関する基本的な考え方」については2018年3月に日本歯科医学会が発表)が今回保険収載されることになったこいいじま・かつや2005 年、東京大学加齢医学講座助手。2006 年、同講師。2011 年、東京大学高齢社会総合研究機構准教授を経て、2016年より現職。専門分野は老年医学、総合老年学(ジェロントロジー)、循環器病学。医学博士。とで、国民運動論としてのオーラルフレイルの考え方は無視できなくなるでしょうし、国民のニーズに歯科として応える責任があります。 今回の論文は、数多くある医学論文の中の小さな出来事の1つかもしれませんが、ささいな口の衰えが死亡リスクを高める可能性があるというエビデンスが示されたわけですので、今後の波及効果を考えると大きな一歩と思っています。国や地方自治体は、2018年から高齢者のフレイル対策を本格的に取り組むことになっていますが、オーラルフレイル対策が遅れをとるわけにはいきません。早急なアクションが必要です。 オーラルフレイルを周知・普及させる本丸は、私たち研究者ではなく歯科医師の先生方をはじめとする歯科医療従事者の皆さんです。 言葉や経済的な問題により、病院に行くことが難しい外国人が集まる健康相談会。ここには医師ボランティアから、肥満や高血圧などの指摘を受けた人たちが栄養相談に訪れる。 目を合わせた瞬間の彼ら・彼女らの笑顔には、明るくて優しいなど、お国柄がいつもにじみ出ている。栄養相談では、原因を一緒に考えるために、在日期間、来日前の体重、食事の時間や内容など、いくつかの質問をする。これらの聞き取りから気づくことがある。男女を問わず自炊している人が多いこと(昼食も手作り弁当)。米飯、肉・魚中心のとり合わせで野菜が少なめということ。そして、菓子類や清涼飲料水、油分の摂取が多いことなどだ。 原因の目星がついても、急に習慣を変えることは難しい。自分ではわかっていても、さまざまな事情で変えることができないこともあるからだ。たとえば、来日してから身近に気楽に話せる人が少なく、夫が帰宅するまで外出する気にもなれず、ついつい食べてしまう人。交代勤務で深夜や早朝に疲れて帰ってくると、自分の好きな簡単にできるものを食べて、すぐ寝る生活をしている人などがいる。笑顔の奥にある、異国で生きるストレスや孤独感、日本での働き方が背景に見えてくることは少なくない。 栄養相談では聞き取った食事や生活の話をもとに、母国で培った食文化や食習慣を土台に、どのようなアドバイスや提案をしたらよいか考える。アドボ(フィリピンの肉や野菜の煮込み料理)やフリホーレス(中南米の豆の煮込み料理)など、お国の家庭料理の話題になると、自然と笑顔が増えて、話が盛り上がる。 食べなければ生きていけない。その欠かすことのできない毎日の営みが、異国の地でも一人ひとりの体と心の健康の源(生きる活力)になると信じている。 (吉永加那 栄養士・シェア※ボランティア)食卓から、異国で生きる活力をリレー連載③「食べる」を支える―私の視点―在日外国人の健康と栄養※認定NPO法人シェア=国際保健協力市民の会

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