新聞クイント2019年6月(お試し版)
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2019年6月10日(月) 第282号2 今月のニュース学 会て解説した。 次に登壇した村松裕之氏(東京都開業)は、「早期治療にあたる歯科医師、矯正専門医としての立場から」と題し、自院で手掛けたDental ageIIC~IIIAの70症例について、セファロ分析の重ね合わせなどを用いつつ検討した結果について述べた。 最後に登壇した五十嵐 薫氏(東北大学教授)は、「叢生の治療を目的とした歯列弓の側方拡大について」と題し、海外の論文を中心にエビデンスの側面から本テーマについて論じながら、移動後の歯列の長期安定性を図ることの重要性を強調した。 今回モデレーターを務めた新井一仁氏(日本歯科大学教授)は、「ひと言に拡大治療といっても、上顎と下顎はまったく違う生きものといって良いものであり、今後は本セミナーにおいてもそのようにとらえたうえでさらなる検討が必要」とし、本学会会長の槇 宏太郎氏(昭和大学教授)は「本議題に関しては、今回で終わらせることなく、こうした議論を続けていくべき」と締めくくった。 4月18日(木)、有楽町朝日ホール(東京都)において、東京矯正歯科学会(槇 宏太郎会長)の2019年春季セミナーが開催された。750名を超える会員らが参集し過去最多の参加者数となった本セミナーでは、「早期治療における叢生歯列の拡大を再考する」について、3名の演者が登壇した。 まず大坪邦彦氏(東京都開業)が、「混合歯列期における叢生症例の歯列弓拡大」と題し、反省症例を含む多くの混合歯列期の叢生症例を供覧しながら、拡大装置適応が望ましいケースに関し過去最多の参加者で早期治療に注目集まる東京矯正歯科学会白熱した議論が展開された会場の様子。予防主体の質の高い医療を実践する歯科医師熊谷直大未来イノベーションWG委員くまがい・なおた2005年、新潟大学歯学部卒業。2009年、タフツ大学大学院修了後、2012年、米国歯科補綴ボード認定専門医。2016年より、日吉歯科診療所汐留所長。2019年、未来イノベーションWG委員。予防メインテナンスがもたらす健康価値を次世代へつなぎたい 3月19日、政府は「未来イノベーションワーキンググループ(WG)」の中間とりまとめを発表した。委員の中に歯科では熊谷直大氏(日吉歯科診療所汐留所長)が参画している。一開業歯科医師がわが国の未来の医療福祉分野のあり方を考える有識者会議で意見を求められているのだ。本欄では、熊谷氏に2040年の医療のあるべき姿と歯科の可能性についてうかがった。熊谷:現在、政府は高齢者の数がピークを迎える2040年頃を見据え、持続可能な社会保障制度とするために議論を進めています。未来イノベーションWGでは、私は「予防」グループの中で歯科での経験から発言しました。 まず、2040年の医療福祉サービスを取り巻く社会情勢については、予防医療の発展によって慢性疾患・生活習慣病になる人とならない人の高齢時の健康差が顕著に現れ、それを見た多くの若い人々が予防によって病気にならない人生を選んでいると思います。つまり、「医療福祉サービスの価値=患者・市民の健康そのものの価値」ということです。 そのうえで2040年に医療福祉サービスに求められることとして、①医療の卓越性、②予防を主体とした医療教育、③エビデンスに基づく検査、診断、治療計画、治療、予防、看護・介護の徹底、④タスクシフティング、⑤追加的医療サービス――などが挙げられます。今後、医療福祉サービスは周辺産業を取り込む形で発展し、医療福祉職種間の垣根もなくなるでしょう。そしてエビデンスに基づく確実性の高い医療福祉サービス以外は許容されなくなり、多くの人々がより質の高いサービスを求める時代になると思います。 予防を主体とした質の高い医療によって不安のない未来を得られることがほぼ確実ならば、より高い健康価値を基盤とする患者さんの求めに応じて、医療福祉サービスにはさまざまな付加価値を発生させることができます。これらを実現するためにIoT、ビッグデータ、AIなどのテクノロジーの活用が必要となります。 また、2040年の医療のコンセプトの1つとして、価値に基づく患者・市民、医療者、保険者(民間も含む)、政府の強い信頼があると思います。日吉歯科診療所(山形県酒田市)で実証されているように、歯科はメインテナンスを主体にした質の高い診療によって市民に健康の結果(アウトカム)を出しながら、健康価値を高めることができます。今後予防医療はテクノロジーと協調して、予測医療の側面を強めていくでしょう。患者さんは正確な情報に事前に出会い、必要な時に自分に合ったサービスを選択できるようになり、医療者も本来必要な医療の提供に無駄なく集中できるようになります。 予防医療は治療と異なりアウトカムはすぐには目に見えてきません。毎日の積み重ねの後、10年、20年、30年後に真の価値となって表れてきます。そのような医療のあり方を歯科は発信し、社会との信頼を強め、一人でも多くの方々に未来の健康のための賢い選択をして頂けるようになることを心から願っています。会員らによる集合写真。 今月のニュース社 会第7回学術大会、約700名が参集し盛会となるSAFE 4月13日(土)、14日(日)の両日、メルパルク大阪メルパルクホール(大阪府)において、第7回SAFE学術大会(奥田裕司大会長)が、「インプラントのトラブルヘキサゴン 補綴・技工的合併症」をテーマに開催され、約700名が会場に参集した。 会場では2日間にわたり、補綴・技工的合併症を「補綴のトラブルとは」「インプラントオーバーデンチャーのトラブル」「インプラント体のトラブル」「インプラント咬合のトラブル」「デジタルデンティストリー」「補綴材料のトラブル」「アバットメントのトラブル」「デジタルデンティストリーのトラブル」の8つのセッションに区分し、講演およびディスカッションが行われた。また14日(日)には、歯科衛生士向けのセッションも開催された。 本大会は「補綴・技工的合併症」をテーマにしていたこともあり、歯科医師の講演に加え、歯科技工士による講演も行われた。治療のテクニックに関する質問だけでなく、マテリアルに関する質問も複数見られたことが印象的であった。 特別講演では、スクリュー固定・セメント固定それぞれの連結様式を用いたインプラント長期症例が提示され、両者の利点および欠点を提示したうえで、各連結様式においてトラブルが生じないようにするための対応が示された。また、会員の中には各インプラントメーカーのインストラクターもいることから、そのネットワークを活用し、各メーカーが提供しているリムーバーなどの貸し借りが行える環境を構築するという提案もなされた。

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