新聞クイント2015年4月
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2015年4月10日(金) 第232号8論文データが示すインプラント周囲炎の治療成績の現状鈴木:まずは、日本でも増加しているインプラント周囲疾患の現状について、多くの論文や講演会などで引用されている図1の文献1)をもとにディスカッションしたいと思います。 この論文によると、インプラント周囲粘膜炎が63.4%、インプラント周囲炎が18.8%というのが世界の標準的なデータとなっています。大月先生の見解をお聞かせください。大月:インプラント治療は創成期から現在に至るまでかなり進歩してきていますが、つい最近までインプラント周囲疾患の有病率に関する情報はありませんでした。正確には、2005年にFranssonら2)が有病率を調べるための横断研究を行ったのが最初です。以後、約10年にわたり、患者レベルで28%、インプラントレベルで12%ほどのインプラント周囲炎に対する有病率があるというデータが出されたことを契機に、さまざまな国で粘膜炎、インプラント周囲炎に対して調査が行われてきました。 図1の論文が示しているとおり、1つ1つのクロスセクションスタディからも、高率で粘膜炎が認められるということは間違いありません。鈴木:この9論文において、インプラント周囲炎が7本、インプラント周囲粘膜炎に限っては4本の集計です。もう1つ前に出されていたメタ分析はわずか2論文で、それもスウェーデンに限って出されていますので、まだまだこのような研究自体が少ないのが現状です。 まして日本のインプラント周囲粘膜炎ならびに周囲炎の有病率のデータは、きちんとした形で発表されていませんので、本当にこのデータが私たちの臨床の数字かどうかというのもはっきりわかりません。しかし、インプラント周囲炎がけっして稀な疾患ではないことが、この論文によってある程度周知されたのではないかと思います。 現在、学術誌や商業誌などではインプラント周囲炎の治療が盛んに取り上げられていますが、治療成績はいかがでしょうか。大月:インプラント周囲炎の治療はけっして簡単な治療ではなく治療成績も良くありません。その理由はインプラント周囲炎の進行スピードが速く見落としやすくなるため、気づけば重症化していることが多いからです。 Serinoらが2011年に出した論文3)では、BOPがなく歯周ポケットが4mm以下という基準において、患者レベルで約50%、インプラントレベルで約60%という治療結果のデータが出ています。インプラントレベルで約50~60%というデータは、たとえばサイコロを振る丁半博打のような治療であり、本来あるべき治療ではありません。 インプラント周囲炎は、もちろん初期の段階では非外科で治癒することもありますが、基本的には外科処置が必要であると言われています。治療成績が高いインプラント周囲粘膜炎の状態で食い止めることこそ、インプラント治療を提供する私たちの命題となるべきではないでしょうか。鈴木:そうですね。たった5割の治癒率のために外科処置をしなければならないわけです。おそらくインプラント治療を患者さんに勧めている歯科医師の多くは、高い生存率をアピールされると思います。しかし、その約20%の確率でインプラント周囲炎になり、外科処置をしても約50%しか元に戻らないという状況下でインプラント治療が行われていることをきちんと説明することも大切ですね。横谷:インプラント周囲炎になってからは手遅れとなることが多いので、患者さんにメインテナンスの大切さをしっかり説明する必要がありますね。メインテナンスにおける「健康維持」と「定期検診」の意義鈴木:メインテナンスには「健康維持」と「定期検診」の2つの意義があると考えています。①インプラントを継続的に保持する②異常(インプラント周囲粘膜炎)を早期に発見して健康な状態に戻す――の2つです。 前者の健康維持は、ホームケアおよび歯科衛生士によるプロフェッショナルケアを中心としてインプラントを健康な状態に保つことです。後者の「定期検診」は、どのような方法で異常を見つけるかということになります。横谷さんが実際の臨床現場で行っているインプラントのプロフェッショナルケアと検診方法についてご説明いただきたいと思います。横谷:インプラントのメインテナンスは、プロービング検査を行い、出血の程度やプロービング数値の変化、滲出液の状態などをチェックします。基本的には天然歯とさほど変わりません。 しかし、大臼歯ではメインテナンスしにくい上部構造の形態がありますので、診査も含めフロスなどを使用しています。また、周囲粘膜炎で出血が見られその程度も多く、排膿などもある場合はクラウンを除去してメインテナンスを行っています。 当院の場合、メインテナンスの間隔は基本的には天然歯と同じ3か月が多いですが、インプラントに限らず患者さんの口腔内の環境やリスクによって決めています。診査・処置が難しい場合のみ、最低1年に1回上部構造をすべて外して検査やメインテナンスをルーチンワークとして行っています。 プラーク除去をはじめ、とくに問題がないようであれば経過観察にとどめますが、基本的には見ただけではわかりません。歯肉縁下にプラークが付着している場合がしばしばあるので、フロスはかならず行っています。大月:プロービング検査については、これまでインプラント周囲にプロービングをしてはいけないと言われていました。インプラント周囲の防御能力、つまり付着歯肉が脆弱な状態ではプラークを押し込むことによって疾患を発症させる要因になったり、たとえばステンレススチールのプローブで発生する金属汚染がきっかけとなったりして骨吸収を起こしたりするのではないかと言われていたことが大きな理由ですが、研究によってプロービングは問題ないということが示されています。 診断の基本ツールとしてのプロービング検査は有効ですが、出血の偽陽性の問題などもあるので出血が多いと感じた場合はX線検査を行うことになります。ただし、論文にも示されているように、上部構造の形態によってプロービンク検査は偽陽性となることも認識しておく必要あがります。鈴木:大月先生のご指摘のとおり、上部構造の設計はプラークコントロールだけでなく検査にも影響を及ぼすことを認識しなければなりませんね。歯肉縁下のプラークコントロールにおけるフロスの有効性大月:図2左の左下6~8番部分は、実はインプラント周囲炎でした。全体的にプラークコントロールが良く、歯間ブラシも使っていただいている患者さんでしたが、歯肉縁下では知らないうちに炎症が進行していたわけです。鈴木:ですから、インプラント周囲炎を引き起こす元凶となっているのであろうインプラント歯肉縁下のプラークコントロールがたいへん重要になってくるわけです。 インプラント歯肉縁下のプラークコントロールについては、『Quintessence DENTAL Implantology』(2013年6号、New Frontier̶歯科臨床が、変わる・動く・広がる̶インプラント治療におけるメインテナンスとホームケア―バトラー インプラントケアシリーズ―P R インプラントを長期にわたって維持するためには、歯科医療従事者だけでなく患者さんの協力が必要不可欠である。インプラント治療におけるメインテナンスの重要性が叫ばれるなか、臨床現場においてはさまざまな材料や機器などを使用してプラークコントロールを行っているのが現状である。しかし、いったいどのアイテムを使用すれば効果的なプラークコントロールができるのか、アイテム選びに苦慮されている歯科医療従事者ならびに患者さんは多いのではないだろうか。 昨年12月、サンスター株式会社より発売された「バトラー インプラントケアシリーズ」は、機能性だけなく操作性も両立させた設計になっており、臨床現場でも好評のようである。 本欄では、インプラントを長期にわたって維持するために歯科医療従事者ならびに患者さんがやるべきこと、また今後のインプラント治療におけるメインテナンスに求められることについて、それぞれのお立場からお話をうかがった。 (新聞QUINT編集部)大月基弘(おおつき・もとひろ)1999年、広島大学歯学部卒業。2001年、大阪大学歯学部附属病院第2口腔外科/総合診療部研修医修了。2002年、赤野歯科医院勤務分院長歴任。2012年、イエテボリ大学大学院専門医課程卒業。ヨーロッパ歯周病専門医・インプラント専門医。2013年、DUO specialists dental clinic開業。日本臨床歯周病学会認定医。鈴木秀典(すすぎ・ひでのり)1994年、岡山大学歯学部卒業。同年、同大学歯学部付属病院第1補綴科勤務。1999年、サンスター財団附属千里歯科診療所勤務。2002年、日本補綴歯科学会専門医。ブレイクスルー大阪主宰。

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