ORAL Information 2019 インプラント
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7QUINT ORAL INFORMATIONクイント・オーラル・インフォメーションP R撮らずにパノラマX線写真の情報をもとにインプラント治療を行って、もし治療に失敗して裁判になった場合には過失の原因とされます。 コンピュータシミュレーションを行ううえでは、最終的な補綴形態からインプラントの埋入位置、それに付随するような骨移植などの必要性を検査診断することが重要です。私が現在恐れているのは、CTを撮れば患者さんの診断をしたと思っている先生が多々おられることです。それでは骨に対してインプラントをどこに埋入するかについての診断はできても、歯に対してどこにインプラントを位置させるべきかはわかりません。長尾 そのとおりですね。アクセスホールやアバットメントの形態などが最終的な補綴装置に反映できないようなインプラントポジションは、私もリカバリーケースで多く見ています。松永 インプラント周囲炎で来院された患者さんのインプラントの状態を確認すると、歯に対するインプラントの埋入位置の間違いからスタートしています。 埋入位置が間違っていても骨の中でインプラントはインテグレーションします。しかし、アバットメントの形態、上部構造の形態、咬合の与え方、そして患者さんの清掃がうまくいかなければ、すぐに骨が減少することになります。インプラント周囲にはポケットができて、さらにはインプラント周囲粘膜炎からインプラント周囲炎になっていくのです。 どのようなソフトを用いてもいいと思いますが、コンピュータシミュレーションでは、最終的な補綴形態からインプラントの埋入位置を検査・診断することが重要なのです。 シミュレーションによってインプラントの埋入位置が決まれば、サージカルテンプレートを作製してインプラントを埋入します。サージカルテンプレートを用いることで、複雑で難度の高い症例においても正確な位置にインプラントを埋入することができるのです。長尾 短期という観点の安心・安全のためには「コミュニケーション」、「患者さんの理解」、そして「検査・診断」と「ゴールイメージ」を持ったうえでの手術が必要だということですね。インプラント治療の長期的な安心と安全のために長尾 次に、患者さんに長期にわたって安心・安全にインプラントを使っていただけるようにするために、先生が取り組まれていることを教えていただけますか。松永 長期的なことを考える際、インプラント周囲炎を防ぐことは必須です。 インプラント周囲炎は、インプラント周囲骨の吸収(マージナルボーンロス)を生じることから起因すると考えられています。このインプラント周囲骨の吸収は、患者の経年的な骨吸収と異なり、術者の手技や材料選択が引き起こすことが問題であると考えられています。 その要因として3つの事項が懸念されており、その1つ目はインプラント上部構造の材料選択です。生体親和性の高い材料を用いることでインプラント周囲組織の炎症を少なくすることが示されており、これは現在のCAD/CAM技術を用いて生体親和性の高いジルコニアやチタンをアバットメントや上部構造に用いることで対応が可能となっています。 2つ目にインプラント上部構造の固定様式の影響があるとされています。セメント固定の場合、残留セメントが炎症を引き起こすことで、骨吸収の直接的な要因になっていることが報告されています。このことから、可能な限りスクリュー固定式の上部構造を用いることが望ましいと考えられています。 さらに、3つ目の要因としては、インプラント周囲組織の温存が挙げられます。近年主流として用いられている骨レベルインプラントでは、インプラントのプラットフォームが骨縁下に埋入されているため、アバットメントなどの着脱を繰り返すことでインプラント周囲の骨吸収が早期に引き起こされることが指摘されています。そのためインプラント周囲の硬・軟組織に対し着脱による侵襲を与えることなく、最終上部構造までを装着できる治療法として、最近の私の臨床ではノーベルバイオケア社のOn1ベース・アバットメントを積極的に用いるようにしています。インプラント埋入後に、インプラント‐軟組織の界面にこのアバットメントを装着し、その後は取り外すことはありません。 そのため、硬・軟組織に対して刺激を与えることなく、さらにアバットメントと軟組織との付着によるシーリングを壊さないためインプラントへのバクテリアの感染を防ぐことができ、その結果としてインプラント周囲硬・軟組織の退縮を防ぐことができます。このコンセプトのもとでインプラントに取り組んで2年が経ちますが、非常に安定しています。 今、自身の10年以上経過した審美症例や臼歯部の症例を振り返ってみると、何か問題が生じた症例では、アバットメントの着脱によって軟組織の安定性が損なわれていたことに起因しているような気がしています。長尾 これは松永先生だけではなく、世界中の歯科医師が取り組んでいる問題だと思います。ノーベル・バイオケアさんに頑張ってもらって、On1™ コンセプトを広めていただきたいですね。では、最後にメッセージをお願いします。松永 重要なのは、患者さんの十分な理解を得ること、補綴まで見据えた検査・診断による適切な治療計画を立案することは言うまでもありませんが、加えて新たなソリューションの導入など治療のイノベーションを積み重ねて進化していくことが医療には必要です。われわれ術者もその視点を持つことが大切だと思います。長尾 ありがとうございました。On1TMコンセプト;ベース・アバットメントは装着時のまま取り外すことなく、軟組織レベルで暫間修復、最終補綴を完了することが可能である。長尾龍典京都府開業:ながお歯科クリニックICOI (国際インプラント学会)認定医・指導医日本口腔インプラント学会会員

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