ORAL Information 2020
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スレベルの高い歯科治療を行う下地となる力を養成する仕組みづくりをさらに進めたいと思います。自分しかできない技術や治療をやるというのはダメで、まずエビデンスという基礎があってこそ、目前の治療について一歩進めて良いかどうかの判断ができるのです。また当学会にもある認定医制度も、取得したからといって専門性高くアドバンスな治療ができるという証左にはなりません。歯周治療の中間地点に立ったに過ぎず、そこから専門性を高めていくのです。この試験もエビデンスにのっとっていますから、エビデンスや客観性がまず当然の鉄則であるという考えを、より多くの歯科医療従事者の方と共有したいと思います。 国民の理解があってこその歯周治療医療は、国民の理解や治療に対する協力、意識向上があってこそ成り立ちます。たとえ歯科医師や歯科衛生士が治療に何が重要か理解していても、患者さんにその理解や意識がないと、特に歯周治療ではなかなか患者さんの協力や良好な治療成果が望めません。こうした患者さんのモチベーションや歯周病と歯周治療に関する知識・理解には、今まで多くの歯科医院が取り組んできましたし、その結果が実ってきていると思います。しかし特定非営利活動法人である当学会のような団体が広く情報提供を行えば、国民の理解の底上げとなり、初診の患者さんがすでに正しい知識をもっているという可能性が高くなります。そのため、歯周病を正しく知ってもらう啓発を目的に、4年前、日本歯周病学会と共同で一般向けの書籍を出版しました。本書は大変好評をいただいており、インプラント周囲炎と全身疾患との関係に注力して執筆された第2弾も発刊されます。このほかにも、歯周病と歯周治療の理解を深める市民公開講座などの啓発活動を行い、歯周治療や口の健康に関する理解を深めるべく努力を続けています。こうした努力が、さらに日本の歯科と国民の口腔の健康を向上させていくと信じています。 これからの日本と世界の歯科のためにこれまで歯科はある意味不遇で、人の健康に深くかかわってきたにもかかわらず、医科とはまったく区別されてきました。しかし歯周病をはじめとする歯科疾患が全身や生涯にわたる人のQOLにかかわることが判明していますし、それが医科にも浸透してきています。たとえば日本糖尿病学会では、糖尿病治療には歯周治療が必要である旨の啓発や医科歯科連携、認定歯科医制度などの取り組みが行われています。今後、適切な歯周治療を行う人材がより求められることでしょう。そうした意味では、歯科界の未来展望は明るいと思っています。そして学会としては、その質を保証できるだけのエビデンスに基づいた知識と技術をお伝えし続ける義務があり、そのためのシステムの構築・管理を行っていかねばなりません。また専門家としてエビデンスを構築していくにあたっては、ある程度の英語力が必要となります。韓国や台湾をはじめ、アジア各国の歯科界や先生がたとコラボレーションをしたり、講演を拝聴する機会が増えるたびに思うのは、グローバル化の必要性です。質の高い治療や学びのためには、国内だけではなく海外の先生方とコミュニケーションをとったり議論が交わせるような英語力を、特に若い方々は身に着ける必要があります。当学会では台湾歯周病学会(TAP)と連携し、2019年から通訳なしで発表、質疑応答、討論をすべて英語で行うインターナショナルセッションを設けています。大変好評で、「英語を勉強する必要性を感じた」「直接英語で議論したからこそさらに深い交流をすることができた」などといった声をいただきました。こうした場に慣れて、さらにアメリカ歯周病学会やその他の海外の学びの場・活躍の場を求めていってもらえたら、と考えています。私も国内外のさまざまな場所で学びを得てきましたが、1回の参加でたくさんのことを持ち帰るのはなかなか難しいんです。何かひとつでも参考になるものを持ち帰ることができれば、それで十分だというような気持ちで参加していただければいいと思っています。まず学ぶきっかけを、ぜひつかんでみてください。令和という新しい時代を迎え、医療を取り巻く状況が刻々変化し注目をされるなか、歯科医師や歯科衛生士など、歯科医療従事者が学び続けなければならない意味とはなんでしょうか。歯周病と全身疾患との関連をはじめとして、歯周治療の重要性が周知され始めてからある程度の年月を経た現在、どんな歯科医療従事者となるべきか、どんな歯周医療が求められているか、それに応えるために何をすべきなのかを含め、日本臨床歯周病学会の現在の実践と今後の展望について武田朋子理事長に聞きました。    [編集部]日本歯周病学会と共同で上梓した書籍『日本人はこうして歯を失っていく 専門医が教える歯周病の怖さと正しい治し方』(朝日新聞出版)。今年5月に第2弾『続・日本人はこうして歯を失っていく 専門医が教える全身の健康につながる歯周病予防』が刊行され、さらなる国民への歯周病とその治療に関する理解が進むことが期待される。専門職として国民に正しい知識と疑問・誤解に対する答えを広く届ける!QUINT ORAL INFORMATIONクイント・オーラル・インフォメーション3

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