ORAL Information 2020
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要介護状態を想定した口腔ケアの基本テクニック 生涯にわたって自分の歯や口で美味しく食べて生きること――。そのために歯科医院に定期的に来院し、継続してメインテナンスを受けることができればよいのですが、残念ながら来院できない患者さんが増えてきているのが現状です。そのようななかで、年々ニーズが高まっている歯科訪問診療の現場に従事する歯科医師や歯科衛生士は多いと思います。 本欄では、池上由美子先生(がん感染症センター都立駒込病院看護部主任 歯科衛生士)に要介護状態を想定した口腔ケアの基本テクニックについて、わかりやすくご紹介していただきます。患者さんの口腔健康管理を支える役割を担っている歯科科衛生士の皆さんは、口腔ケアを一生懸命取り組むあまり、“あれも!これも!”となりがちですが、 “ベスト”ではなく “ベター”を優先しましょう。 さらに今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染対策にも鑑み、訪問診療時の口腔ケアにおける感染リスクを下げるためのトピックスもご紹介していただきます。 (編集部)池上由美子 先生がん感染症センター都立駒込病院看護部主任歯科衛生士 本欄では、要介護3(立ち上がり・歩行などが自分ひとりではできず、排せつ・入浴などに多くの介助が必要な状態)を想定し、口腔内の状態は「残存歯が上下合わせて10本以上、座位保持が可能、顔面麻痺なし、自身で吐き出し(うがい)ができる程度の状態」と設定しました。ⒶⒷⒶ事前に入手しておくと良い患者さんの情報① 性別② 既往歴③ 服薬状況④ 麻痺の有無⑤ 座位保持⑥ 食事形態⑦ 患者背景 などⒷ口腔ケアに必要な物品①ガーグルベースン ②紙コップ ③洗口剤 ④ライト ⑤ミラー ⑥ピンセット ⑦歯ブラシ ⑧スポンジブラシ ⑨綿棒 ⑩ワセリン ⑪保湿剤 ⑫ウェットシート③①②④₁⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫ 訪問診療の際、口腔ケアをもっとも効率的に実現する方法、それは「事前の情報収集」です。たとえば、新卒の歯科衛生士といえど、口腔衛生については一定の修練を積んだ国家資格者ですので、現場に行くとそれなりの口腔清掃はできるでしょう。ここで重要なことは、「いかにして的確なケアを効率良く行うか」です。そのためにもっとも重要なことは「事前の情報収集」と、私は思っています。性別、既往歴、服薬状況、麻痺の有無、座位保持、食事形態、患者背景など、これらの事前情報があれば、患者さんの口腔内状態に合わせて予測を立てることができ、訪問時に持ち込む物品を必要最小限に減らすことができます。さらには、主治医はもとより看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど関係職種の方々と密接な連携をとる際にも役立ちます。事前の情報収集こそ、訪問診療における口腔ケアを成功に導く重要度の7~8割を占めるといっても過言ではありません。 前述した事前の情報収集を元に、口腔ケアに必要な物品を用意します(写真₁)。口腔ケアといえば、まずは物品準備と思いがちです。実際には使用しないけれど、物品をたくさん持参することで少しでも不安が解消すると思っている歯科医療従事者は少なくありません。しかし、その場しのぎの口腔ケアを提供していては、精度は向上しませんし、いつまでたっても非効率なままです。また、訪問診療の口腔ケアに費やす時間はおよそ20分といわれていますので、限られた時間で効率的かつ高精度の口腔ケアを目指すために、事前の情報収集を心がけましょう。口腔ケアを成功に導くポイント。事前の情報収集を心がけよう!QUINT ORAL INFORMATIONクイント・オーラル・インフォメーション4

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