デンタルアドクロニクル 2016
16/172

14巻頭特集1-5 健康寿命延伸のための歯科医療を考える2016Dr. Senichi Suzuki鈴木仙一(すずき・せんいち)1984年日本大学松戸歯学部卒業、1987年ライオン歯科開設、2000年歯学博士号取得、2006年日本大学松戸歯学部臨床教授任命、2012年ICOI米国本部理事、2015年医学博士号取得。現在、コロンビア大学・ニューヨーク大学生涯歯科研修顧問、濱州医科大学烟台口腔医院名誉教授、日本口腔インプラント学会専門医・指導医、日本臨床歯周病学会認定医、日本歯内療法学会専門医、NPO法人歯科医療情報推進機構理事、海老名市歯科医師会会長、などを兼任。 超高齢社会におけるインプラントの役割 現在、無歯顎患者数は500万人といわれています。また、歯は残存しているものの著しく動揺あるいは残根のみで事実上無歯顎の潜在的患者を含めると約1,200万人といわれています1)。 図1のように65歳未満では 5 %に満たなかった総義歯の使用率が、65歳を超えると一気に20%近くまで、また75歳を超えるとほぼ40%が総義歯を装着しています。     概して総義歯は粘膜支持のため、安定性が乏しく側方運動をすることが難しい。そのため、患者はどうしても垂直的な咀嚼運動が中心になりやすい。また、総義歯患者では、歯の喪失にともない、垂直顎間距離が短くなっている場合が多く、筋力を最大限に使用することが難しい状態になっています。ところが、インプラント治療において即時修復を行うと、患者は今までと違い固定式となるため、側方運動を含むさまざまな運動が容易にできるようになっています。それにともない、今まで使用していなかった外側翼突筋、側頭筋などの側方運動に必要な筋肉群を急激に使用し、咀嚼筋、顔面表情筋が変化し、咀嚼能力は飛躍的増加するのですが、合わせて筋肉の痛みや頭痛、肩こりなどを訴えることがあります。そこで、そのような患者には首回りの筋肉を含め、ファイナルレストレーション装着後においても口腔周囲筋ケアを続けることが重要であると考えています。 正しい知識を得て健康寿命を考慮すれば、インプラントを使用した咀嚼力の回復は大きな役割を果たすと考えます。オーラル・フレイルの予防とインプラントの関係 昨今、日本歯科医師会では「8020運動」に加えた国民運動として「オーラル・フレイル」(口の衰え)の予防という新たな考え方を示しました。オーラル・フレイルとは、口の衰え、いわゆる滑舌の衰え、食べこぼし、わずかのむせ、噛めない食品が増えるなどの些細な口腔機能の低下のことであり、このことは身体の衰えと大きくかかわっています。 そのため、オーラル・フレイルを予防して「健康長寿」を目指そうというのが国の方針として進行しています。つまり、歯を喪失することで起こるさまざまな咀嚼筋、表情筋の衰えを賦活させ、義歯および補綴物を適正に装着することにより、食物を咀嚼し飲み込む力を発揮するまでの一連の流れを円滑にし、それを維持することを目標としているのです。 総務省の報告によれば、わが国は世界に先駆けた超高齢社会に突入しています。2000年の国勢調査において、日本の人口は 1 億2,700万人前後であるが、2020年には 1 億2,410万人、2030年には 1 億1,662万人となり、2050年には 1 億人を割り込み、2060年には9,000万人程度にまでの人口減少が予想されています。一方、高齢化率は上昇することが見込まれており、2025年には75歳以上のいわゆる「後期高齢者」となる団塊の世代が800万人に達すると予測され、さらなる医療や介護の需要増加が見込まれます。 さらに、認知症高齢者や単身高齢世帯などの増加にともない医療や介護サービス以外にも、日常的な生活支援を行う NPO、ボランティア、民間企業などの支援体制の構築も必要であります。また、高齢者の社会参加を推進させ、元気な高齢者が生活支援の担い手として活躍するなど、高齢者が社会的役割をもつことで、健康寿命延伸にもつながります。オーラル・フレイルの予防とインプラントの関係から見た“健康寿命延伸”

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 16

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です