デンタルアドクロニクル 2016
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健康寿命延伸のための歯科医療を考える2016 巻頭特集115健康寿命延伸とインプラント 特にインプラント治療は、健康寿命延伸を可能にする治療法であると考えられています。インプラント補綴により実現される食物の十分な咀嚼は、以下のような利点が挙げられます。① 脳の活性化とリラックス作用(図2)② 脳の血流量の増加③ 口腔機能向上による誤嚥性肺炎の予防④ 転倒による大腿骨頭骨折などの予防⑤ 低アルブミン血症などの栄養改善⑥ 活性酸素の消去⑦ 運動機能の向上⑧ 骨粗鬆症の抑制(十分な咀嚼が不適合義歯によってなされないことによる)⑨ 老化の防止⑩ 運動機能の向上⑪ アルツハイマー型認知症などの防止⑫ 食物の発がん物質の発がん性の減弱⑬ 肥満の抑制⑭ 十分な咀嚼を可能とすることから糖尿病の治療効果の向上⑮ 大脳皮質の神経活動を活性化させる⑯ 免疫機能の増進、唾液分泌を促進させる⑰ 十分な咬合回復ができ、脳の前頭前野の代謝量を増加させ、ワーキングメモリー能力を向上させる。⑱ 姿勢制御の増進などに効果があると考えられています。 もちろん、適切な状態で装着された義歯でも可能ではありますが、インプラントによる動揺しない補綴物はより一層、効果が上がると考えます。何より、インプラントにより、口腔の健康に関与する QOL を向上させ、意欲の増進を図れることが大きな利点であります。 こうした効果を期待しながらも高齢者にインプラント治療を行った際に起こり得る問題点を考え、それを解決していくことにより、超高齢社会における正しいインプラント治療の在り方が見えてくるはずです。インプラントの目指すところ インプラント治療が健康促進、健康維持また、健康寿命の延伸に大きな影響を与えているということは、高齢化が進めば進むほどその需要は拡大していくと思われます。超高齢社会の中で考慮しなければならないことは、時間という概念です。平成24年度厚生労働省の90歳男性の平均余命は4.16年である。それに対して20歳男性の平均余命は60.36年です。つまり、時間の尺度で測ると90歳男性に1年かけて治療するということは、20歳男性に15年かけて治療するのに等しいのです。 厚生労働省は、平成23年に歯科口腔保健法を制定し、高齢者が定期的に歯科を受診するように提唱しましたが、それよりも以前に江戸時代の儒学者で医師の貝原益軒は、日本歳時記で“人は歯をもって命とする故に、歯という文字はよわい(齢)とよむ也”と言い、歯は命と直結するほど重要だということを示していました。平均余命が短い高齢者にとって治療期間短縮を実現した現代インプラントは、ますますその重要性・必要性を増していくものと考えます。100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%何らかの義歯を使用ブリッジ部分入れ歯総入れ歯45~54歳55~64歳65~74歳75歳~年齢階級図1 平成23年(2011年)歯科疾患実態調査。75歳以上では約90%の人が何らかの義歯を使用している(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-17.html)より引用。図2 脳機能イメージングによる歯科治療効果の定量評価。通常の義歯(上段 CD)、インプラント支持の義歯(中段IOD)および天然歯(下段 Dentate)でガム咀嚼を行った時の脳活動。IOD の時のほうが通常の義歯より天然歯で噛んだ時に近い脳活動を示している。つまり、インプラント支持の義歯のほうが通常の義歯より脳の活性化が起こっている(明治大学電気電子生命学科と神奈川歯科大学クラウンブリッジ補綴学講座との共同研究による)。参考文献1. 赤川安正,吉田光由.特集:日本補綴歯科学会第121回学術大会 シンポジウム2.「咬合咀嚼は健康長寿にどのように貢献しているのか」健康長寿に与える補綴歯科のインパクト.補綴誌 2012;4:397‐402.

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