デンタルアドクロニクル 2016
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6巻頭特集1-1 健康寿命延伸のための歯科医療を考える2016Dr. Masahito Sumitomo住友雅人(すみとも・まさひと)日本歯科医学会会長。日本歯科大学名誉教授。日本歯科医学会総務理事・副会長、中央社会保険医療協議会(中医協)専門委員など、多数の要職を歴任。2013年7月、日本歯科医学会会長に就任。2015年7月より2期目を務める。健康寿命への想い 日本男女の平均寿命が世界一といわれて久しくなっています。医療費の増加を一つの理由として日常的に介護を必要とせず、自立した生活ができる健康寿命が話題となってきました。医療費や介護費を減らすことが主目的ではなく、人々とりわけ高齢者が健康で日々の生活を楽しむことが大儀ではありますが、すべてきれいごとではすまされません。 まず、わが国において、健康寿命を平均寿命に近づけることが大きなテーマになる幸せを認識する必要があります。自然災害の悲劇はありますが、世界の中では平和で安全な国であることに対して感謝しなければなりません。今世界では多くの国や地域で、戦争、紛争、動乱、テロが発生していて、これらに巻き込まれた人々は若くして命を落としてしまっているため、いやおうなしに平均寿命と健康寿命が近いわけです。これとは反対に、わが国は長生きはできるようになりましたが、病気に苦しむことなく健康で生活をエンジョイできる期間が長い、いわゆるピンピンコロリが社会目標となっています。これは単に医療の問題として対応するだけでは無理な話です。なぜならばこれまで、そしてこれからも医療にはいかにして命を長らえさせるかという大前提が存在し、それに向けて新技術、新薬、新器材の研究開発にまい進することは間違いないでしょう。健康寿命を平均寿命に近づけようとしても、一方は立ち止まってくれません。立ち止める医療がないわけではありませんが、わが国の尊厳死がまさにそれであり、海外では安楽死にあたります。これもまた、平和な国家で議論されるテーマです。 先述したように、健康寿命は医療だけで語ることはできません。健康で楽しめる生活を確保するという幅広い見地からの対策が必要となるからです。現在では独居、孤食生活になっている人たちに健康で楽しめる生活がないのではなく、大勢で暮らしている人々にも同じ状況は起き得ます。人はさまざまであり、結論的にはそれを少しでも良い状況に置くには、個別の対応が必要となるのです。もちろんすべて解決するのは不可能な話であり、それが人の生き方というものでしょう。とはいえ、われわれ歯科界からも極力普遍的な提案が必要ですし、歯科界だけで完結するものではなく、大きな歯車の一つとして役立とうとすることが前提です。ライフステージにおける学会の取り組みは幼児期から 少子高齢化問題では高齢者が脚光を浴びていますが、子どもへの施策も重要で、その対応の良し悪しがこれからの日本のあらゆるところに影響します。高齢者医療は小児期、壮年期に受けた医療のアウトカムであるともいえるところから、歯科医療が健康寿命の延伸に貢献できるとなれば小児期、もっと言えば胎児の時から積極的に介入する必要があります。 健康寿命には、子ども時代からの食べることの役割が影響してくるとの想いがあります。そこで平成25年7月に学会長に就任した時に、執行部が主体的にテーマを決めて研究を行う重点研究委員会を立ち上げました。そして、「日本歯科医師会が8020運動を開始して以来、高齢者の口腔ケアに関しては、積極的な国民活動が推進され、効果を上げている一方で、乳児・小児における摂食機能障害が大きな社会問題になっている。いわゆる障害を持っている子どもたちの摂食障害のみならず、今日の生活環境に起因しているといわれるが、健常児において問題化してきている。しかしながら、その実態を示す明確なデータを本学会はもって医科だけでは実現できない健康長寿社会日本歯科医学会 から見た“健康寿命延伸”

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