デンタルアドクロニクル 2016
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80●クラレ+ノリタケ。そこから生まれる物性、審美、そして信頼。 冒頭で述べたとおり、クラレとノリタケはさる2012年に「クラレノリタケデンタル」として統合され、双方のアドバンテージを活かしたシナジー効果ある製品群を生み出している。 その例としてはまず、CAD/CAM冠用レジンブロック「カタナ アベンシアブロック」が挙げられる。歯科関係者にとって、クラレの高分子技術についてはすでに周知であり、充填材の技術を応用してレジンブロックを作ることは容易なことに思われるだろう。しかし、それだけでは「人が作らないものを作る」というコンセプトが生かされない、平凡なものになってしまう。そこで、本製品にはノリタケが培ってきた粉体成形技術を投入。通常、レジンブロックの製造過程では、フィラーとモノマーを混合したペーストを型枠に入れて重合することが一般的であるが、クラレノリタケでは半焼結のジルコニアブロックのようなフィラーのブロックを用意し、それに対して真空下でモノマーの液体を浸透後、加熱重合して製造している。これにより、ペーストにフィラーを練り込むよりも高密度にナノフィラーを配合することに成功している。この工程で、いかに最適なブロックとモノマーを用意できるのか。まさに、粉体技術と高分子技術の双方に長けていなければ、高性能レジンブロックは製造できないのである。 さらに、ノリタケには世界のセラミストを唸らせてきたシェード設計の技術があるが、その技術は2014年発売の歯冠用硬質レジン「セシードN」にも惜しみなく注がれているという。●原材料から社内で調合は、クラレノリタケのジルコニアだけ。 ノリタケのジルコニア開発への取り組みは早く、約30年前にさかのぼる。工業用製品を目的としたものであったが、ここで培った技術がその後デンタル分野に活かされることになった。クラレノリタケの研究開発への姿勢を表すエピソードとしては、ジルコニアブロックの製造過程に関するものも挙げられる。デジタルデンティストリーの進化はジルコニアブロック/ディスクの需要増大とほとんど同義のものとして広がりを見せており、世界各国において多種多様な製品が販売されているが、そのメーカーのほとんどが調整された原材料を調達している。しかしこうした中、クラレノリタケのジルコニアは、原材料を自社で調合するところからはじめているという。ジルコニアブロックの主成分はZrO2だが、その安定化のために加えられるイットリアやアルミナ、そして染色のための各種元素など、調合によってさまざまに性格を変えていく。そうした技術の成果として今注目されているのが、四層の色調の異なるジルコニアを積層した、より自然感の高い修復物を製作できるマルチレイヤー型の「ノリタケカタナジルコニア UTML/HTML」である。1枚のディスクの中に複数のレイヤーを収めることは単純なことのように思わThe KND Story ③Aiming perfect synergyグしてしまう」といったことがなぜ起こるのか、そしてその解決法について研究を行っていた。メタルセラミックスの製作においては、陶材の熱膨張率を高めて金属のそれと近似させることが必須であり、そのためには原料となる長石にフラックス成分を添加して熱処理を行い、リューサイト結晶を析出させる。しかし、このリューサイト結晶の量をコントロールするのは困難とされてきた。すなわち、これがコントロールされていない陶材ではユーザーの焼成スケジュールや繰り返し焼成によってリューサイト結晶が増加あるいは減少し、トラブルにつながるのである。そこでノリタケでは、坂氏、そして当時の開発本部長であった稲田 博氏とともに、追加焼成を繰り返してもリューサイト結晶の増減が極力抑えられる陶材の研究に着手。その結果、「クラックフリー」のキャッチフレーズを掲げたAAAの完成をみたのである。それから約30年。現在でもノリタケの「クラックフリー」は歯科技工士の間で絶大な信頼を誇っている。現在の若手歯科技工士は、陶材が黄変したといった話を実感できないかもしれないが、これもAAA以後のこと。現在の当たり前が当たり前でなかった時代。そのクラックフリー性能、繰り返し焼成時の安心感において、AAAは現在でも他の追随を許さない。

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