デンタルアドクロニクル 2016
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健康寿命延伸のための歯科医療を考える2016 巻頭特集17いないために、本委員会において、集学的な研究成果から提示していただきたい」の内容で諮問しました。これは摂食機能障害で困っている子どもたちの存在が明らかになれば、関連多職種との連携のもとに歯科医学的見地から、そのサポートを積極的に行うことが目的です。 この重点研究の結果は、報告書と公開フォーラムの形で社会に発表しました。調査研究では、確かに「食」のことで問題がある子どもの存在も確認できました。公開フォーラムにおけるご意見を集約すると、個別対応が必要となるとのことでした。そして今期は前期の答申書の提言を具体的に展開するために、委員会に対して①学会HPなどを活用し、FAQのサイトを立ち上げ、子どもの食の問題解決に関する普及啓発に着手する②子どもの食の問題は個別の対応策が必要であるので、その段階を選別する方法(システム)と摂食・咀嚼・嚥下に関する機能的な問題を改善するための評価システムを構築すること③この分野に歯科が積極的に関与する卒前卒後を通しての生涯教育体制の提案、そして、食の問題の改善に向けた多職種を含めての研修会の開催――を諮問しました。 夫婦共働き家族をはじめ家族の形態が多様化してきている昨今、家族団らんの食事が難しくなってきています。これを摂食障害の問題点の1つと捉えて、その対応を考える必要もあるのではないでしょうか。団らんの場には、食べる機能だけではなく話す機能も重要な要素であり、ここに歯科から焦点を当てていくことができるでしょう。地域のコミュニケーションに貢献して健康寿命を延伸する 脳神経領域の目、耳、鼻、口などの器官からは文化が入ります。それでは文化が出る器官といえば口と答えるでしょう。語り、唄、セリフそして日常の会話において発せられる文化は多いのです。今まで歯科界は食べ物を口に入れそれを咀嚼し、嚥下し消化器に送る流れを円滑にすることに力を注いできました。西日本新聞の佐藤 弘氏のいわれるように、「口は命の入り口 心の出口」です。そこへの歯科の関与は万人が認めるところでしょう。 ことほどさように、口は文化の出入口です。おしゃべりによる文化の交換は、相手の話を理解し返答をつくる、もしくはこちらから話題を提供し返事をもらうという、脳細胞の瞬時の活動の連続で、会話によって脳は活性化されます。今盛んに地域包括ケアシステムが叫ばれていますが、医療、介護の登場より先に、地域のコミュニケーション体制を整えていかなければなりません。団塊の世代が定年を迎え、高齢者として街に戻ってきていますが、たとえば保育所で保育士のもとで孫育に貢献したり、老人ホームと保育所を併設すれば、孫たちからは若さをもらい、高齢者の経験を次世代に伝えたりすることができます。そのような豊かなコミュニケーションの場を育てることが、地域包括ケアシステムを成功させる土壌となります。超高齢社会に貢献できる歯科医師を育てる 2025年問題でも取り上げられるように、2050年頃までは高齢者人口は増加の一途をたどると予測されています。健康寿命の延伸には、子どもの時からの予防医療が必要であるとはいえ、現状では高齢者を対象とした重症化予防の医療を並行して推進していかなければなりません。 学会の取り組みとして、昨年立ち上げた口腔ケアに関する検討委員会が提言した「口腔健康管理」の概念を、歯科医療職種をはじめ多職種の共通言語として社会に発信し、それぞれの専門性を発揮する医療の提供体制の整備についての検討を諮問しています。そのために公開フォーラムを開催し、医師を含めての多職種、加えて国民からの意見を幅広く聴取し、協働的に貢献できる歯科の立ち位置を示すように求めています。 また、今期新設した歯科医学教育・生涯研修協議会へは、非感染性疾患(NCDs)をはじめとした全身疾患を有する患者への歯科医療をより推進するための方策を求めています。在宅歯科医療においては多くの点でリスクは高くなります。この状況を打破するために分科会の協力を得て、日本歯科医師会会員向けの継続的な生涯研修システムを構築する計画です。学会は会員・歯科界そして社会とのコーディネーター 本会にはそれぞれの専門性を有する43の分科会が加入しています。各々が有する多くの情報、とりわけエビデンスレベルの高いデータは、歯科医療の社会貢献におおいに役立つ資産です。本学会は、分科会を横断的に見るコーディネーターであり、さまざまな組織との窓口でもあります。 本学会としては、日本歯科医師会との連携は重要と考えています※。日常の歯科診療の多くは診療所で行われていて、これまでにもかかりつけ歯科医師の役割を果たしてきています。これからは、地域包括ケアシステムにおいて多職種連携の大きな存在の構成員としての活躍が期待されています。 本特集においては、歯科が介入することによって健康寿命が延び、平均寿命との差を縮めるエビデンスが示されると思います。これからは認知症患者への対応が必要性を増すと予測され、その未然予防や重症化の予防はますます注目を浴びることになります。ここにも高いエビデンスを揃え、歯科の社会貢献度をよりいっそう高めることにより、歯科界の存在を世に示し、内にあっては一段と社会貢献を推進する機運が高まることを期待しています。 このように本学会は、歯科の目をもって社会を俯瞰しながら、全会員のコーディネーターの役割を果たしていくことを目標としています。※1. 日本歯科医師会発行の『健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデンス2015』には詳細なデータが蓄積されている。歯科が健康寿命の延伸に貢献していく上での重要な切り札である。※2. 日本歯科医師会ホームページのテーマパーク8020「全身とのかかわり」で日本歯科総合研究機構の恒石美登里先生が歯の健康と健康寿命などについて国民向けにわかりやすく解説されている。http://www.jda.or.jp/park/relation/teethlife.html#1

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