デンタルアドクロニクル 2017
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8巻頭特集1-2オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017Dr. Hirohiko Hirano平野浩彦(ひらの・ひろひこ)日本大学松戸歯学部卒業(医学博士)。平成2年、東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)歯科口腔外科研修医。平成3年、国立東京第二病院口腔外科研修医。平成4年、東京都老人医療センター歯科口腔外科主事。平成14年、同センター医長。平成21年、東京都健康長寿医療センター研究所専門副部長。平成28年、東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科部長。現在、日本老年学会理事、日本フレイル・サルコぺニア学会理事、日本応用老年学会理事、日本老年歯科医学会常任理事・専門医・指導医。健康寿命と介護予防 オーラルフレイルの予防を考えるには、まず近年の老年医学の動向を理解しておきたい。そのキーワードの1つが「健康寿命」である。健康寿命は、高齢期における「健康」と「虚弱」の期間を合わせた部分(図1)で、その延伸を図るべく平成18年に導入されたのが介護予防事業である。これは、それまで「腰が痛い、足が痛い」など「齢のせいだから仕方がない」といわれていた老年症候群を「危険な老化のサイン」と位置づけて早期発見、早期対処することを目的としていた。この介護予防事業における、患者に向けた25項目の基本チェックリストには、咀嚼、嚥下、口渇という口腔の機能面のスクリーニングができる質問が3項目含まれ、これは画期的なことであった。「歯を残す」ことに加えて「口腔の機能の重要性」がここで初めて示されたからだ。「ちょっと食べにくい」とか「飲み込みにくい」といった「齢のせいだから仕方がない」とされてきた部分にスポットが当てられたのである。 しかしながら、この介護予防事業は健康寿命の延伸には大きくは奏功しなかった。その理由は、早期発見、早期治療とされながらも、その介入ポイントは図1内のAのポイントであったからで、そこで対処するのでは遅すぎた歯科医師が「自分事ごと」にできるかが、まず重要のである。歯科においても、この事業で口腔の機能低下の予防に楔を打たなければならなかったが、その加算(口腔機能向上加算)に関しては、それほど売れたサービスとはならなかった。心身の些細なトラブル:フレイル このような介護予防事業の背景を踏まえて、もう少し早い段階での予防介入が議論されるようになった。そして、白(健康)か黒(障害)かではなく、グレーの部分があるだろうということで注目されたのが、2000年にFriedらが提唱したFrailty(虚弱)という概念で、これが日本の老年医学でいうフレイルである。フレイルの特徴は身体的、社会的、精神的な因子が複合的に絡み合い、いずれの要素からでも生じうるところにある。フレイルの提唱により、身体的な部分はもちろん、精神的、社会的因子にも目が向けられた。先述の介護予防事業の影響もあり「危険な加齢の兆候」すなわち老年症候群がフレイルと同義であると誤解されがちだが、フレイルとはこれらよりももう少し前段階の「心身の些細なトラブルの気づき」の状態をいう。 日本老年医学会は「①筋力が弱くな図1 健康寿命とフレイルの位置づけ。図内Aは介護予防事業における介入ポイント。Bはフレイルの介入ポイント(「ザ・クインテッセンス」2016年8月号、岩佐ほか論文より改変引用)。から見た“オーラルフレイル予防”

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