デンタルアドクロニクル 2017
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オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017巻頭特集19る、②倦怠感さらに日常生活がおっくうになる、③活動量が低下すること、④歩行機能が低下、⑤体重が減少」の5つをフレイルの要素に挙げている。これらは、どれも本当に些細なことで、「齢のせいだから仕方がない」として看過してしまいそうなことばかりであるが、これらにいち早く気付いて対処することこそが、実は健康寿命の延伸に寄与するのだと考えたのだ。すなわち、図1内のAからBへと介入ポイントが移ったということである。オーラルフレイルの意味と役割 歯科界も超高齢社会という時代に沿った歯科治療モデルが模索されてきた。そして平成25年に中医協が示した「歯科治療の需要の将来予測(イメージ)」では、歯科治療の需要が健常者型の「歯の形態回復」から高齢者型の「歯の機能回復」へとシフトしていくことが示された。しかし、「高齢者」といっても、健常期の者、介護予防の対象となる者、要支援・要介護の者、施設入所・在宅療養要介護の者などさまざまで、これらの高齢者の口のトラブルや口腔機能の低下、あるいはオーラルヘルスプロモーション(口腔保健活動)は個別に議論されるべきではなく、1つの高齢者型のモデルを基にすべきだと議論された。そこで、先述の老年医学におけるフレイルにならって提唱されたモデルがオーラルフレイルである。 歯科界は「咀嚼の機能を守る」という大命題に対して「歯を失うのは仕方のないこととして、まずはきちんと補綴する」ということから始まった。そこから「義歯よりも天然歯を残したほうがいいだろう」となって、8020運動があった。さらに近年、咀嚼機能の維持には、残存歯数の問題のみならず、咀嚼筋やサルコペニアといわれる全身の筋肉の衰えにも注意しなければならないことがわかってきた。そういった、より広い視点にたっての議論をするうえでの考え方も、オーラルフレイルという概念で整理できる。 オーラルフレイルの症状は、厚生労働省が平成25年に作成した「栄養(食/歯科口腔)からみた虚弱型フロー(案)」に示されている。ここではフレイルをその重症度別に四期に分け(図2)、その第二段階の口腔機能をオーラルフレイルと定めて「滑舌低下」「食べこぼし・(わずかな)むせ」「噛めない食品の増加」をその症状に挙げている。ただし、オーラルフレイルの概念やその定義は、その後も議論が続いており、未だに煮詰まっていない状態である。そのため、オーラルフレイルは「口の虚弱な状態」「些細な口のトラブルがはじまった状態」といった感じでまずはファジーに捉えておけばよい。その定義はともかくとして、この言葉が広まって、いろいろな議論が深まることが重要だと考えている。GPは何ができるのか? では、オーラルフレイルの兆候が見られる高齢者が、一般のかかりつけの歯科医院を訪れた際、歯科医師(GP)は現状で何ができるか? 一言で答えれば、それは生活指導ということになる。その具体的な内容は、介護予防事業が発足した際に提案されたことと同じで、関連する成書がたくさんある。当時は今一つ浸透しなかったが、再度それらを活用すべきだ。また、フレイルのリスクが顕在化する後期高齢者に対する歯科健診がはじまっているが、その健診内容(高齢者歯科口腔健診票)は機能系の項目が主体で「オーラルフレイル検診」といってもよい内容だ。だから、求めさえすればGPにできることは現状でもたくさんある。ただ、介護予防やオーラルフレイルの予防は、歯科医師自身がその問題を「自・・・分事」のように考えられなければうまくいかない。学問的な知識だけでは、患者に伝わりにくい難しさがある。歯科医師自身が「老い」の兆候を感じる年齢になれば自分事にもしやすいが、そうでなければ、ハードルが高く感じられるかもしれない。自分事とまではいかなくても、自分が高齢者に行った義歯やインプラントで、その患者がそれ以降一生噛めるとは限らないことを経験している歯科医師は多いはず。そして、その時にすべきことは、義歯の再製やインプラントの再埋入だけではないことに気付いている歯科医師は多いだろう。 いずれにしても、「歯(形態)」だけを考える時代は終わった。歯の形態、機能を含めて全身の「健康」と向き合わなければならない。実は、国民の健康に関する意識はわれわれが思う以上に高まっている。健康のリテラシーを高めるべきは、国民ではなくわれわれ歯科医師なのかもしれない。(談)図2 オーラルフレイルの位置づけ(「ザ・クインテッセンス」2016年8月号、岩佐ほか論文より改変引用)。

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