デンタルアドクロニクル 2017
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10巻頭特集1-3オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017安達恵利子(あだち・えりこ)歯科衛生士。1993年新東京歯科衛生士学校卒業後、医療法人社団秀飛会上志津中央歯科(千葉県)勤務。現在に至る。水島美保(みずしま・みほ)管理栄養士。1977年大阪市立環境科学研究所附設栄養学院卒業後、有床診療所や保育園、保健所、内科勤務を経て、現在、アンブル歯科(福岡県)勤務。日本栄養士会認定在宅訪問管理栄養士、福岡県糖尿病療養士。後期高齢者で目立つ、衰弱からの要介護安達:わが国では若年層が減り続け、唯一増加していくのは75歳以上人口だと予想されています1)。来院患者さんの高齢化は、皆さんも感じているところだと思います。高齢の患者さんが多い当院の患者層を年齢別に分けると、65歳未満と、65歳以上の割合がほぼ同じくらいです。 高齢者が要介護に至る要因を見てみると、前期高齢者(65〜74歳)では7位だった「高齢による衰弱」は、後期高齢者(75歳以上)になると2位に浮上します(図1)2)。前期から後期へと至るまでに、衰弱にいたる何かしらの原因があると考えられます。 その原因として、体力や筋力の低下、活動意欲の減退、社会参加の不活発化などが考えられますが、日々の食事も大きな要因の1つだと考えられます。そして、慢性的な栄養不足は「低栄養」につながります。在宅診療で目にする“低栄養の先”の姿水島:私は訪問歯科の現場で、嚥下評価後の嚥下食の調理指導と、医科主治医の指示で歯科患者の栄養指導を行っていますが、以前は在宅医療を行う医科有床診療所で、医師の指示により訪問栄養食事指導を行っていました。医科・歯科の在宅診療のなかで、これまでさまざまな状態の高齢者と出会いましたが、サルコぺニアに陥り、極端に痩せ細った状態の方を目にすることが多くあります。この方たちは、特別な疾患にかかったのではなく、いずれも原因は低栄養です。 高齢者の体重減少は食欲の低下・食事量の減少から始まります。低栄養になると、全身の筋肉が減少し、体力の低下や摂食嚥下機能の低下を招き、フレイル(虚弱)の状態になると考えられます。それらが転倒・骨折や持病の悪化、さらなる栄養摂取の困難につながり、要介護状態になるリスクを高めます(フレイルティ・サイクル)。低栄養は、このフレイルに至るきっかけとなるほか、フレイルを重症化させ、要介護状態に至る流れを加速させるものといえます。 歯科診療所で患者さんの栄養状態に目を配り、低栄養を防ぐことは、高齢患者さんの健康を守るためにとても重要です。ぜひ、低栄養への理解を深めていただければと思います。低栄養とは安達:低栄養は、たんぱく質とエネルギーの失調障害です。野菜中心のあっさりした食事などを毎日繰り返すことによってたんぱく質が不足すると、筋肉が落ち、疲れやすくなり、脳の機能も衰えていきます。水島:これは、1日の必要栄養量*を食事から摂れない状態が続くと、身体を維持するためのエネルギー(必要栄養量)不足を補うために、体の中のグリコーゲン・脂肪・たんぱく質(筋肉)を分解していくためです(図2)。低栄養に陥ると、表1のような特徴がみられます。歯科医院で栄養状態のチェックを水島:高齢になると、うまく食べられなくなったり消化機能が落ちたりして、栄養も水分も充分に摂れなくなることが少なくありません。「どうして食べないのか、食べられないのか」は、高齢者一人ひとりで異なります(表2)。これらは複数の問題が絡み合って生じるので、包括的な対応が求められます。高齢者の低栄養は、その人にかかわる職種が問題に気づき、対応で歯科医院でこそ行いたい低栄養へのアプローチから見た“オーラルフレイル予防”Rd. Miho MizushimaDh. Eriko Adachi*‌70歳高齢者のエネルギー必要量は男性で1850~2500kcal、女性で1500~2000kcalとされている3)。 また、たんぱく質の必要摂取量は疾患により異なる。

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