デンタルアドクロニクル 2017
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オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017巻頭特集111きる職種とつながり、多職種で連携する以外に解決できません。 私たち管理栄養士は、低栄養になってしまった高齢者に、栄養が無理なく摂取できるような食形態を提案したり、ご家族などにはたらきかけて、食べる意欲を取り戻してもらうような食環境を用意します。ですがいちばんよいのは、そもそも低栄養に陥るような栄養状態にならないことです。そのためには、健康なうちから通うことの多い歯科医院の皆さんの力が欠かせません。皆さんが低栄養予防に力を発揮できると思う理由は、2つあります。 まず、低栄養の兆候は早期発見が大切だからです。低栄養は、要介護に至る要因のひとつでもあり、要介護の重症化をもたらす要因でもあります。歯科医院に来院する高齢患者さんには、低栄養の兆候が認められる人や、すでに低栄養になっているのに気づいていない人がみられます。だからこそ、歯科医院の皆さんが早期にその兆候に気づくことが大切なのです。 次に、歯科医院は患者さんの変化に気づきやすい環境だからです。低栄養かどうかを評価する際には、「6ヵ月間で2〜3kg」の体重減少6)が重要な判断基準となります。医科と違い、長期的に患者さんとお付き合いしていく歯科では、密に患者さんの変化が観察しやすい環境といえます。6ヵ月というのは、ちょうどリコール間隔と同じくらいではないでしょうか。前回の受診時と比べて患者さんにどのような変化があったか、ぜひ口腔内以外にも目を配っていただきたいと思います。定期健診時にフレイルチェック!安達:当院では、7年前から患者さんの年齢に応じた食生活や生活習慣改善の指導を行っています。私自身、以前は患者さんの歯を守ることだけが歯科衛生士の仕事だと思っていました。しかし、「歯がない」「入れ歯が合わない」「硬いものが噛めない」といった主訴で来院された患者さんが、治療後に硬いものでも何でも食べられるようになったせいで、逆に食べ過ぎて生活習慣病になってしまう例を何度も目にし、「歯を治したらそれで終わりではいけない」と考えるようになりました。 それから、治療中や治療後に、患者さんの年齢や体格などに応じて食事の内容や食べる順番など、栄養を含めた指導をするようになりました。たとえば、定期健診時に、診療室の測定器を使って患者さんがフレイルの兆候がないかチェックできる仕組みをつくっています(図3)。測定値からは身体のバランスや部位別の筋肉量などの情報が得られるので、そこからフレイル予備軍、ひいては低栄養予備軍の患者さんを発見することもできます。 こうした指導は患者さんを健康に導くために必要であり、歯科衛生士だからこそできることだと思います。図1 年齢による要介護要因の違い(文献2より引用改変)。図2 飢餓時の身体構成成分の自己消費過程(文献4より引用改変)。表1 低栄養の特徴(文献5より引用改変)。口腔機能の問題●かめない●飲みこめない●義歯不適など身体機能の問題●買い物に行けない●料理を作り終わるまで立っていられないなど認知機能の問題●調理のしかたがわからない●買い物で代金が払えないなど心理的な問題●不安による食欲減退など疾患の問題●持病が重症化しているなど環境の問題●一緒に食べる人がいない(孤食)●食事を作ってくれる人がいないなど経済的な問題● お金がないなど社会参加の問題●自宅に閉じこもりがちなど表2 「食べられない」の裏にある問題。図3 フレイルの簡易チェック項目。参考文献1.‌内閣府. 第1章 高齢化の状況. http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2015/html/zenbun/s1_1_1.htm2.‌ダノン健康栄養財団. Vol.89 (2) 第14回ダノン健康栄養フォーラムより「加齢と健康—サルコペニアの予防対策—」. https://www.danone-institute.or.jp/mailmagazine/backyear/2012/372-89-2.htm3.‌菱田 明, 佐々木 敏(監修). 日本人の食事摂取基準[2015年版]―厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会報告書」―. 東京:第一出版, 2014;388.4.‌熊谷直子. ③栄養(飢餓). In: 若林秀隆, 藤本篤士(編著). サルコペニアの摂食・嚥下障害. 東京:医歯薬出版, 2013 ; 32.5.‌農林水産省. スマイルケア食(新しい介護食品). 低栄養とは. http://www.ma.go.jp/j/shokusan/seizo/pdf/teieiyou.pdf6.‌厚生労働省. 介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)について. http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.htm7.‌池田 望, 村田 伸, 大田尾 浩, 甲斐義浩, 村田 潤, 冨永浩一, 溝田勝彦. 高齢者に行う握力測定の意義. 西九州リハビリテーション研究 2010:3;23 -26.前期高齢者(65〜74歳)後期高齢者(75歳以上)脳血管疾患(脳卒中など)48.1%脳血管疾患(脳卒中など)21.1%関節疾患10.6%高齢による衰弱20.5%転倒・骨折13.6%認知症12.9%関節疾患10.6%パーキンソン病9.9%転倒・骨折7%脊髄損傷4%認知症3.9%パーキンソン病5.3%高齢による衰弱1.6%脊髄損傷2.3%その他14.9%その他13.7%①やせてくる(体重の減少)②皮膚の炎症を起こしやすくなる(皮膚がはがれ落ちやすい・免疫力の低下)③風邪などの感染症や合併症にかかりやすい(免疫力の低下)④食欲がない、歩くのが遅くなった、歩けない、よろけやすい(歩行速度の低下)⑤疲れやすい、だるい、元気がない、ボーッとしている(活動量の低下・軽度認知症・鬱)⑥口の中や舌・唇が乾いている(脱水・多剤服用)⑦握力が落ちる(握力の低下)1〜4は患者さんに答えてもらい、5は、高精度体成分分析装置(InBody)でBMIを計測してから、握力を握力計で測定してもらう。握力は測定方法も簡単なうえ、さまざまな身体機能を反映すると報告されている7)。1.体重の減少この1年間で4.5kg以上減少しましたか?  はい  いいえ2.疲れやすさ著しい疲労感の自覚はありますか?  はい  いいえ3.活動の頻度日常の生活活動(交流・外出など)は減少しましたか?  はい  いいえ4.歩く速さ歩く速度は以前に比べて低下しましたか?  はい  いいえ5.BMIと握力BMI(    )握力(    )BMI握力女性23.0以下17kg以上23.1~2617.3kg以上26.1~2918kg以上29.0以上21kg以上男性24.0以下29kg以上24.1~2630kg以上26.1~28 28.0以上32kg以上BMIと望ましい握力の目安第2ステップ:脂肪の分解グリコーゲンを使い果たしたら、次に身体に蓄えられた脂肪が分解される。脂肪組織の貯蔵エネルギー量は10万kcal。脂肪組織1gにつき、7kcalのエネルギー源となる。第3ステップ:体たんぱくの分解グリコーゲン、脂肪が分解されても、エネルギーが補えない場合は、筋肉を分解し出す。1gの筋組織は1kcalに相当する。第1ステップ:グリコーゲンの分解飢餓状態になると、まず肝臓に蓄えられたグリコーゲンが消費される。肝臓内のグリコーゲンの量は300〜400kcalに相当し、12〜24時間かけて分解される。低 栄 養先鋒中堅大将

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