デンタルアドクロニクル 2017
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12巻頭特集1-4オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017Dt. Shunsuke Arimura有村俊介(ありむら・しゅんすけ)歯科技工士。一般社団法人日本補綴構造設計士協会(PSD)理事。2003年尼崎口腔衛生センター附属尼崎歯科専門学校歯科技工学科卒業、同年大阪大学歯学部附属病院歯科技工研修生を経て現在、医療法人吉永歯科医院技工室にて勤務。2011年補綴構造設計士ライセンス(一般社団法人 日本補綴構造設計士協会)取得。オーラルフレイルとは何か 高齢者における筋力・精神力低下のことを「フレイル」という。英単語の「frailty」を語源とし、その意味は「虚弱」などと訳される。この状態は要介護状態寸前であることを表し、車椅子や寝たきりなどへ直結することから医療・介護の現場で近年さかんに取り上げられているキーワードである。 また、そこに至るまでに歯・口の機能の虚弱が関与するものをとくに「オーラルフレイル」とよぶ。たとえば、何らかの歯科的トラブルを抱えた高齢者が自分の食べたいと思うものを食べられず栄養不足を呈し、これをきっかけとして虚弱となり外出の減少や転倒・骨折により介護が必要な状態へ陥ってしまうことがそれにあたる。すでに到来した超高齢社会において、高齢者だけではなく要介護高齢者も増加している現状を鑑みると、このオーラルフレイルを改善・予防することが要介護状態を回避し、ひいては健康寿命の延伸を達成する要点となることが理解できる。 では、われわれ歯科技工士がこの問題に対してアプローチするにはどのような方法が挙げられるか、考えてみよう。オーラルフレイル予防への歯科技工的アプローチ まず、ひとくちに「予防」といってもそれには種類があることを理解せねばならない(表1)。現状、歯科技工士が介入できるのは予防の最終段階にあたる第三次予防である。ここでは失われた機能を回復し、リハビリテーションを行うことが主体となる。大臼歯を1本失うだけで咀嚼効率が30~40%減少するという数値は、歯科医療に従事する者であればだれもが知るところではあると思うが、この当たり前の事実こそがオーラルフレイルの原因となるのである。欠損補綴の選択肢としてはブリッジやインプラントも挙げられるが、今回は義歯による機能回復を例に実際の症例を供覧する。 患者は69歳、男性。臼歯部の欠損により食事および発音の困難を主訴として来院した。医療面接を経て歯科医師による診断を受け、義歯による治療が開始された。全身状態は良好で服薬もないことから、通法にしたがい歯科医師による前処置が施された口腔内に義歯が装着された(図1)。治療前と、治療後の咀嚼に関するアンケートの結果を図2に示す。喪失した臼歯部に対して義歯が装着され咀嚼能率が向上することで、食べられるようになった食品の範囲が広がっていることがわかる。機能する義歯はオーラルフレイルを改善することができることの証明であろう。逆にいえば、不適切な製作により機能しない義歯が装着された場合は、オーラルフレイルを改善するどころかかえって状態を悪化させてしまうということを肝に銘じておかねばならない。われわれの手から作り出される修復物の精度によっては、健康寿命を長くも短くもできてしまうということである。 また、同じような欠損であっても患者の健康状態によっては義歯設計の変更が起こりうる。すべての症例に対して画一的な答えはなく、一人ひとりに合わせた提案が必要なのである。そのためには、口腔内のみならず、全身状態が把握できるだけの視野の広さが求められる。チーム医療の一員としての歯科技工士 予防とは別に、一連の治療の流れの中で歯科技工士が関与するのは治療の部分である(図3)。それぞれの段階で実にさまざまな専門医療職種が関連し患者を支え取り巻く一輪の輪となるわ「オーラルフレイル予防・改善への歯科技工士の.取り組み」から見た“オーラルフレイル予防”

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