デンタルアドクロニクル 2017
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14巻頭特集1-5オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017インプラント治療後の体型補整と健康増進を目標にDr. Hiroaki Takeuchiから見た“オーラルフレイル予防”武内博朗(たけうち・ひろあき)神奈川県開業:武内歯科医院鶴見大学歯学部臨床教授、横浜市立大学医学部分子生体防御学非常勤講師、日本大学歯学部衛生学講座兼任講師、日本抗加齢医学会専門医、日本アンチエイジング歯科学会常任理事、 日本口腔検査学会理事、国立感染症研究所客員研究員。患者さんの栄養状態(代謝・体組成)を目標にするという視点を持つ この記事を読まれている方の医院に、以下のような高齢患者さんは来院されていないでしょうか。・サルコペニア(骨格筋量が著しく減少した状態)など、明らかに健康を損ねそうな体型の患者さん・やせ細っていて、いかにも転倒が始まりそうな体型の患者さん今まで私たちは、そうした患者さんに遭遇した際、まず歯科領域の診断をしてきました。すると、大臼歯がなかったり、無歯顎だったりする。そして欠損補綴治療などの介入を行ってきたわけです。 上記のような体型の患者さんに対して、口腔内の状態や口腔機能だけに着目するのではなく、「歯がないから(咀嚼機能が低下して)高カロリー、低栄養なものを食べているんだな」と気づき、その改善を計画・提案する(図1)。それが今後の歯科医療にとって、大切な役割になると考えています。メタボリックより深刻な「咀嚼機能低下による低栄養」 咀嚼機能低下の指標は100mg/dl以下です。そうした患者さんは、カロリーは充足していても、低栄養の状態になります。また、糖質代謝が悪く、糖尿病にかかりやすい人、すでにかかってしまっている人は、大臼歯が欠損したまま糖質偏重食を続けていると、食後高血糖が解決しません。 また、サルコペニアになる原因は、アルブミン値の低い状態でずっと生活していることにあります。これも肉が食べられない、タンパク質の摂取量が少ないことに由来しています。そして、大臼歯を喪失した人はこの状態になりやすいという関連性があります。 私は、こういった患者さんを歯科医師が早めに発見して、声かけをしていく習慣が根付くべきだと思います。たとえば、東京大学高齢社会総合研究機構・教授の飯島勝矢先生が骨格筋量を簡便に評価する「足輪っかテスト」を提唱していますが、こうしたものも、診療室で「ちょっと計ってみてください」と患者さんにやってもらうと良いでしょう。その結果「よかった、指がついた」と誤解して喜ぶ人もいますが、実際は栄養状態の改善が必要です。 そのようにして歯科医院側から患者さんに情報提供しながら、たとえば奥歯が欠損していれば補綴治療を行うなどして食生活を改善し、タンパク質をしっかり摂ってもらう。さらには、タンパク質をつくるBCAA(分枝鎖アミノ酸)をとって、筋肉量を増加させる。そういう方略を立てていくことが有効です。 ちなみに、1日に必要なタンパク質を高齢者が摂るのは、なかなか大変です。たとえば体重50kgの人が1日に必要なタンパク質摂取量は50g。これは、卵1個、乳・乳製品200g、魚一切れ(約70g)、肉一切れ(約70g)、大豆・豆類60g(納豆1丁・豆腐1/5丁)にあたります。これを毎日続けていくのは、十分な咀嚼機能がなければやはり難しいのです。インプラントは健康づくりの強力なツール その点において、インプラントの果たす役割は非常に大きいと言えます。インプラントを埋入すると、咀嚼機能値が一気に上がり、他の補綴方法とは比較にならないほどよく噛めるケースが多くあります。例えば図2の患者さんは、70mg/dlだった右側の咀嚼力が230mg/dlまで回復しています。 当院の患者さん35名の咀嚼機能を測ったところ、補綴前の咀嚼機能値は平均で61mg/dlだったのに対し、補綴治療後は平均136mg/dlに上がっています。また、これは臨床実感ですが、

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