デンタルアドクロニクル 2017
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オーラルフレイルの予防を多角的に考える2017巻頭特集117義歯を使っている人が多いことがわかりました(グラフ2)。 また、認知症の発症と義歯使用の関係を調べたデータもあります。歯がほとんどなく義歯も使っていないかたに認知症の発症が多くみられた一方、義歯を使用している人は、自分の歯で食べている人と比べて発症の割合がそれほど大きくは違わないことがわかります(グラフ3)。 つまり義歯により咬合ができると、寝たきりのきっかけとなりやすい転倒のリスクや、認知症発症のリスクを減らす効果を期待できるわけです。 さらに注目したいのが義歯による低栄養予防と、誤嚥性肺炎予防です。 じつは無歯顎でも、よく食べ元気で長生きする方もおり、必ずしも低栄養が無歯顎や義歯の不使用と直接結びつくとは限りません。また、食事の内容は習慣化しやすく、よい義歯を入れても栄養が改善されないケースもあります。しかし、義歯を装着し、適切な食事指導をする場合に栄養状態が改善し体重が増加したという結果からは、義歯の使用が低栄養の改善に効果があることがわかります(グラフ4)。 そして、義歯の役割としてもうひとつ重要なのが、嚥下の補助機能です。筋肉が衰え舌が挙上しにくくなると、床の厚みのおかげで舌を大きく上げずとも口蓋に舌がつき嚥下しやすくなり、誤嚥のリスクを減らせるのです。 このように、歯科の専門的技術である義歯治療は、患者さんの将来のフレイルを予防することができます。体力が衰えてきたとき、義歯は「転ばぬ先の杖」として患者さんを多角的に支えることができるのです。 超高齢社会のなか、歯科の貢献を社会にアピールするには、この事実に歯科医師みずからが気づき、「高齢者のフレイル予防こそわれわれに課された使命である」という意識をまずは持つことでしょう。 フレイル予防としての義歯治療、その社会貢献が広く認められれば、歯科の未来は大きく変わるのではないか、と私は思っています。(談)「義歯治療」にはフレイル予防の効果が。「フレイル予防こそ歯科の使命だ」という自負をそろそろ私たちは持つべきだと思う。グラフ1 咬み合う歯のない高齢者における義歯使用と生存率グラフ2 認知症高齢者の咬合と転倒-1012-2(kg)体重が増えた作ったが使っていない人製作後ずっと使っている人体重が減った1.2kg1.8kgグラフ4 義歯装着6ヵ月後の体重変化Kanehisa Y. Yoshida M et al. Community Dent Oral Epidemiol, 37:534-538, 2009.02004006008001000120014000123456日数歯がほとんどなく入れ歯不使用歯がほとんどなく入れ歯使用歯が19本以下歯が20本以上認知症になっている人の割合(%)Yamamoto et al., Pscychosom. Med., 2012グラフ3 認知症発症と歯の数・義歯使用との関係Yamamoto et al. Pscychosom. Med., 2012.00.00.20.40.60.81255075100(月)入れ歯を使う人入れ歯を使わない人生存率生存率が高い!Yoshida M, et al. Gerodontology 22, 234-237, 2005.100%0%年に2回以上転倒した人年に1回以下の転倒ですんだ人歯がなく入れ歯も不使用入れ歯を使用自分の歯で食べているYoshida M et al. J Am Griatr Soc, 2005

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