デンタルアドクロニクル 2017
87/164

85超高齢社会での歯科医療の在り方を再考するんは必ずいると思っています。図17は愛仁歯科医院における外来での口腔機能管理の様子です。歯科衛生実地指導、PMTCに加えて口腔機能評価や口腔機能向上訓練を行ってもよいでしょう。あまり状態のよくない患者さんには栄養アセスメントや栄養食事指導も行っています。すべてを行わなくても、メインテナンスで通院可能な患者さんには口腔機能評価までは行ってもよいと思います。このように、外来での指導の充実が訪問先で発揮できるスキルにつながると考えています。 口腔機能支援センターさいわいでの活動は、介護相談や介護スタッフ・家族の研修の他に、地域の高齢者の食事会などにも足を運んで、介護予防啓発・普及にも取り組んでいます。このような取り組みは、実は高齢者だけでなく、歯科衛生士自身のコミュニケーション能力を挙げるのにもひと役かっています。ともに暮らす地域の人たちの食べる、話す、微笑むを支える歯科専門職になっていけるように、本年度から「か強診」に力を注ぎたいと思っています。上田 普段、大学にいるとあまり聞くことのできない話を伺いました。今後、医療は地域包括ケアシステムがベースになっていくわけですから、こういった活動は重要だと思います。ただ、これから歯科界が地域包括ケアシステムのなかで従来型の縄張り争いではなく、マンパワーや技術、そして心意気がどこまで社会のニーズに応えられるかが課題になりそうです。求められていることは多いですね。本間 歯科医師はそのバリューを自身でわかっていることが少ないです。歯科医師が指摘することは、実は現場の他の職種の人が知らない、知識がないことが多いので、在宅や施設に行ってたとえば義歯のことであったり、口腔内所見を話すと、はじめてわかる人が多いですね。歯科医師が現場に来てくれるだけでものすごくインパクトがあるのです。その背景には、現場の職員さんたちは、口腔内の正しい情報に飢えているということもあるようです。ぜひ積極的に参加いただいて、地域の人たちとのつながりをつくっていただければと思っています。上田 最近、NST(Nutrition Support Team)に歯科の先生が入るようになってきましたけれど、ミールラウンドにも歯科医師や歯科衛生士が入っていくことが非常に重要だと思っています。患者さんが食べているのをみて、歯科医師だから当たり前のようにわかるところも、他の職種の人たちは専門ではないので、気が付かないこともありますよね。そこはやはり歯科の専門職がみることが重要だと思います。本間 ただむせているだけでも、機能に問題があるのではなくて、認知に問題があって、どんどん食事のペースが速くなってむせている場合もあります。これは実際に歯科の専門職がみなければわかりません。実際に歯科医師にみていただき、安心することが多くあります。安田 どうしても歯科医師には在宅支援のようなチームに参加するにあたって敷居が高いイメージがあるようです。わざわざ外にでて、多職種の人たちと一緒になっても、こんなに知識もなくて……という妙な考えが多いのでしょう。そういったところに勤務している歯科衛生士も引っ込み思案だったりします。先生が挙げられた、心掛けていること2点のうち、「口腔の観察と評価」はわかりやすく、これならば、という気にさせてくれますね。「多職種連携は必ずできます」という心強いお言葉もいただきました。ありがとうございました。これからの超高齢社会で求められる歯科医療材料とは?安田 最後にせっかくの座談会ですので、各先生に、各々の現場で、ステージで、このような歯科材料があったら便利だなということをご提案いただきたいと思います。須貝 現場では義歯の調整が多いわけです。まず粘膜調整材を使ってからリベースに移行する手順を踏みますが、粘膜調整材がそのまま硬化して、リベースした後と同じ硬さになるものがあったらよいと感じています。安田 粘膜調整材は剥がすのも大変ですね。上田 メーカーさんも歯科医院内だけでその材料が使われているわけではないということを考慮に入れてほしいですね。たとえばセメントでももっと早く固まるものを用意するとか、印象を採って歯科医院にもち帰っても、寸法精度が保てるだとか、速度とか使いやすさについて、歯科医院内のようなよい環境だけで使われているわけではないことを考慮に入れた製品がほしいと思います。本間 やはり簡便に使えるものがよいと思います。たとえばラバーダムとか水洗した後にしっかりブローしなければならないものなどは在宅などの現場では難しいです。しっかり防湿をしなければならないものなどは、在宅では使いづらいと思っています。上田 接着材なども3ステップのものなどは使えないですよね。本間 そうですね。本当によく接着するのですが、前処置が長いと唾液が入ったりしますので、難しいです。安田 今後、超高齢社会が進んでいくなかで、本日各先生にお話しいただいた内容は、すぐにでも歯科医療関係者が勉強していかなければならないことだと思っております。その意味では非常に貴重な座談会の機会になったと思っております。本日はありがとうございました。参考文献1.‌水口俊介,津賀一弘,池邉一典,上田貴之,田村文誉,永尾寛,古屋純一,松尾浩一郎,山本健,金澤学,渡邊裕,平野浩彦,菊谷武,櫻井薫.高齢期における口腔機能低下―学会見解論文 2016年度版.老年歯学 2016;31(2):81-99.

元のページ 

page 87

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です