デンタルアドクロニクル 2018
13/164

超高齢社会の“歯科訪問診療”を考える 2018  巻頭特集111「食べられていますか?」の質問から患者さんに最適な食事・食事法を導くために それでは、「食べる」にかかわる指導のためには具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか。 そもそも、「食べる」ことは押し付けるものではありません。もともと食が細い方など、患者さんが違えば背景も違い、摂取量や摂取物が異なるのは当たり前で、通り一遍な「1日3食、毎食必ず●●カロリー摂取しましょう」という指導は“ケア”ではないと思います。まずは、「食べられていますか?」の一言を患者さんにかけてみてください。そのうえで、現在はどのようなものをどれくらいの量、どれくらいの時間をかけて食べているのか、実際の食事場面を観察してほしいと考えます。 食事場面の観察では、私が監修した食事観察サポートソフト「い~とみる」でも示したように、「全身状態」「認知機能」「口腔機能」「咽頭機能」「姿勢」の5テーマ25項目の所作(図1)をチェックできれば理想的です。これは決して難しいものではなく、患者さんご家族などでもチェックできるものです。これらの多角的な視点での観察により、「食べる力」の評価が可能です。咀嚼など機能的な問題以外についても気付くきっかけとなり得るでしょう。ご家族への説明だけでなく、他職種連携のイントロダクションとしても非常に有効だと考えます。 とはいえ、口腔の専門家としてかかわるならこれらの観察に際し、口腔期・咽頭期のイメージは持っておくことです。具体的にいえば頚部聴診、嚥下のスクリーニングを行い、自分の評価した口腔でどの程度、食塊形成ができているのか、きちんと咽頭へ送り込まれているかどうかくらいは診れるようになると、指導へつなげていくことができます。 何も、VE(嚥下内視鏡検査)をしなくとも、外部観察から、嚥下するまでの食塊形成時間が長い場合、準備期に問題があるなど、ある程度のことは把握できるものです。小さな“気付き”を他職種へつなげることも専門職としての役割 訪問現場に足を運ぶ歯科衛生士は真面目な方が多い一方で、すべてを自分で解決できないものかと抱え込んでしまうことがある印象を持っています。 「食べる」という分野を診るときには、歯科の専門知識だけではどうにもできない壁が立ちはだかることは必ずあります。そういったときに、「ほかの専門職を頼る」ということを忘れないでほしいのです。患者さんを診ているのは歯科だけではありません。医師や看護師、管理栄養士、薬剤師、言語聴覚士、ケアマネジャー、さまざまな分野の専門職がついています。 口腔内を日々診ている歯科衛生士しか気づくことのできない口腔の変化、違和感などの気付きは必ずあります。「この患者さん、●●かもしれない」「あの患者さんに●●をしてあげたい」というときに、自分でなんとかしなければいけないと悩むのではなく、その気付きや提案をその分野を専門とする他職種にバトンとして渡すことも立派な対応です。 口腔内から課題を発見し、患者さんの環境を考慮したうえで、どのような提案を誰につなげるか、それこそ、歯科衛生士だからこそできることです。歯科衛生士の存在は歯科訪問診療の現場で「食べる」を診るうえで、とても大きいものだと思います。参考文献1.‌山根 寛,加藤寿宏.作業療法ルネッサンス―ひとと生活障害1 食べることの障害とアプローチ.東京:三輪書店,2002.図1 食事観察のための25項目。全身状態①どこか元気がない様子である②現在37℃以上の発熱がある③声掛けしても目を閉じたままである④食欲がない⑤自分一人で食べることが困難である認知機能⑥食べることを促しても拒否する⑦食べもの以外のものを食べようとする⑧落ち着きがなく食事に集中しない⑨丸飲みしている様子である⑩なかなか食事が進まない口腔機能⑪食べこぼしがみられる⑫上手く噛めない様子である⑬食事のときに入れ歯の装着を嫌がる⑭食後、口腔内にたくさんの食物残留がみられる⑮口腔ケアすることを嫌がる咽頭機能⑯お茶や汁物でむせる⑰固形物(お茶や汁物以外)でむせる⑱痰絡み(濁声)がみられる⑲一口量にもかかわらず飲み込みに時間がかかる⑳飲み込むときに苦しそうな表情がみられる姿勢㉑体が左右どちらかに傾いている㉒極端にうつむいた状態である㉓頭部が後方へ仰け反っている㉔麻痺や緊張がみられる㉕食事中に姿勢が崩れやすい

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る