デンタルアドクロニクル 2018
14/164

12巻頭特集1-4超高齢社会の“歯科訪問診療”を考える 2018Dr. Masato Watanabe渡辺真人(わたなべ・まさと)医療法人社団健由会 さくら歯科医院。1996年 日本大学歯学部卒業、東京大学医学部附属病院歯科口腔外科研修医。2000年 さくら歯科医院開設。日本老年歯科医学会認定医、日本老年歯科医学会専門医、日本障害者歯科学会認定医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会会員、日本救急医学会認定インストラクター。歯科技工士が訪問診療に帯同することで素早い「食の確保」が可能に 歯科訪問診療に歯科衛生士・歯科技工士と同行した際の話である。初診の患者で要介護状態・ベッド上安静であり、口腔内は残根および動揺歯が数本ある方であった。繋いでくれたケアマネージャーからの情報は、「むし歯や揺れている歯があり、義歯を使用しているが咬めない」というものであった。そこで、義歯を使用しているとの情報もあり早期の機能回復のため歯科技工士にも同行してもらった。結果として抜歯すべき動揺歯1歯、残根2歯であり、動揺歯の抜歯および残根充填後に義歯増歯という処置になったのであるが、要介護者のケアプランの中でわれわれが介入できる時間がなかなか合わないのも訪問現場の特徴である。今回の患者では朝食後より昼食前までの時間をいただくことができたため、早期の機能回復による「食の確保」を目的に治療を行うこととした。口腔内の処置に関して配慮すべき全身疾患のない患者であったため、浸潤麻酔後に義歯の取り込み印象を行い通法どおり筆者と歯科衛生士は口腔内の処置を行ったのであるが、それと並行して歯科技工士による模型上での義歯増歯修理となった。診療所での処置と内容に大差はないが、「時間」と「診療スペース」「診療ツール」の工夫が必要になるのが訪問の現場である。同行した歯科技工士は訪問診療の現場での工夫を分かっており、時間短縮のためキサンタノ(クルツァージャパン)で石膏模型を製作し、その脆弱性を補うため印象体に楊枝を挿して石膏注入を行った。増歯修理・床縁延長も手際よく行い、歯科衛生士による口腔ケア後に抜歯および充填処置を行った筆者とほぼ時間が変わらずに仕上がり、口腔内にて調整後テストフードにて食の確認を行い終了した。歯科技工士とともに在宅療養要介護高齢者に対して歯科訪問診療により円滑に「食の確保」を行えた1例である。本症例ではないが、類似の別症例を図1に示す。要介護高齢者専門外来でも生きる歯科技工士の力 筆者の診療地域にある神奈川県藤沢市歯科医師会は、全身的な予備力の低下した在宅療養要介護者への歯科診療提供のため「管理しやすい口腔」を作り早期に問題解決を図る目的で、高齢化率14%であった平成14年10月より要介護高齢者専門外来を設置し搬送による診療所診療を開始した。開設当初より迅速に義歯問題を解決し、「食の確保」をするため歯科技工士を診療チームの一員として登用している(上記の1例もそこに勤務している歯科技工士である)。専門外来での歯科技工士の主な業務としては予備力の低下した要介護高齢者の欠損補綴を担当し、「食の確保」に関する問題を解決するために診療所診療においては義歯修理・義歯増歯増床・新製時咬合床製作・人工歯排列を「食べるための口づくり」の基本業務とし、診療チームの一員として活躍している。また、歯科訪問診療の現場にも歯科医師・歯科衛生士と「食の確保」までの診療時間の短縮や訪問回数を少なくするために同行し歯科医師をサポートしている。 本邦は超高齢社会に突入し、高齢化率27%超と過去に類をみない高齢者の増加となってきた。その結果、在宅歯科医療や高齢者歯科医療のニーズがさらに高まることが予想され、歯科診療所に通院できない患者の増加から、在宅や施設における医療・介護・福祉の各種サービスは重要性を増し、その連携は高齢者のQOLに大きく関与している。歯科技工士とともに行う歯科訪問診療の意義から見た“歯科訪問診療”

元のページ  ../index.html#14

このブックを見る