デンタルアドクロニクル 2018
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超高齢社会の“歯科訪問診療”を考える 2018  巻頭特集117安全のカギは「姿勢」にあり 口腔ケアを行う際に、安全面でいちばん重要なのは「姿勢」です(上図参照)。ケアをする側、される側の姿勢がとても大切で、無理な姿勢でのケアは誤嚥だけでなく、非常に危険な事故である窒息につながりかねません。事故は一度体験してしまうと、ケアをする側にもされる側にも恐怖感が芽生えてしまいます。 ケアをされる側がベッドに仰向けに寝たままはNGですし、ケアをする側が傾いた、変な姿勢になるのもNGです。相手が苦しい体勢なのも、自分が苦しい体勢なのもよくありません。 口腔ケアをはじめる前には、まず声をかけて意識を覚まさせます。注意を向けてもらうことで、誤嚥のリスクが減ります。体調のすぐれないときや、嫌がられるときは無理をせず、できる範囲で実施し長続きさせるのが大切です。そのかたの体調を見つつ、進めていきましょう。 これらは、患者さんへの日々のケアを担う、ご家族や施設のスタッフのかたにも、ぜひ伝えておいてほしいことです。 口の周りや口の中に指を入れて粘膜をマッサージし、舌や頬の粘膜を刺激して動きをよくすると、唾液の分泌量が増え、ぼーっとしていた患者さんも表情がしっかりしてきます。 いままでごあいさつをしても無反応だった寝たきりのかたが、口腔ケアを続けているうちにだんだん目がはっきりとしてきて、小さい声ですが「ありがとう」と言ってくれるようになったこともありました。歯科の仕事は「食べる機能を守る」こと 訪問診療のニーズの高まりを受け、「訪問診療をやらなきゃ」「摂食嚥下を学ばなきゃ」とハードルを自分で上げ、プレッシャーを余計に感じてしまっている先生がたが目立ちます。 ですが、いま通ってくださっている患者さんの食べる機能の維持・回復に努めていただくことも、広い意味では要介護高齢者の減少につながります。 痛い歯がない、抜けてる歯がない。そこからすべてがはじまります。しっかり噛めて「食べる」が維持できているかたは、生涯それが続きます。何かあって歯が抜けてしまって、食べにくいから反対側の歯でばかり噛んでいる、奥歯が痛いから前歯でばかり噛むようになっている――それが「食べられない」に早くつながるのです。 そうならないために、患者さんには、「しっかり噛める状態」を維持することが最大の要介護予防であること、お元気なときから歯科医院に定期的に通って、お口の状態を絶えず良好に維持することが大切だということを、お伝えいただきたいと思います。 歯科の仕事は「食べる機能を守る」こと。歯だけを守るのではありません。歯を守ることは食べるための手段であって、目的ではないのです。食べる喜びを失ったかたをサポートすることで、そのかたの生きることをサポートする。訪問診療もその例外ではなく、治療やケアを通じて、そのかたの食べる機能を少しでも維持・回復させ、食べる喜びをサポートするのが、いちばんの理想だと考えています。 超高齢社会に向けて歩を進める日本。このような状況のなかで歯科ができることはいっぱいあります。口腔環境を整え、口腔機能を維持・向上させること、それが歯科の本分です。在宅の高齢者であっても、施設、病院の高齢者であっても、歯科がかかわることで大きな成果を残せるはずです。それぞれの歯科医師がそれぞれの現場で本分をまっとうすること、それこそが歯科の社会的役割なのです。(談)ケアする側にも無理のない姿勢が、安全な口腔ケアにつながります。目線の高さをそろえようケアをする側が立って歯ブラシを口の中に入れようとすると、ケアをされる側のあごが上がり、誤嚥しやすくなってしまいます。また、腰をかがめてケアをするのは、ケアをする側にとってつらい姿勢です。ひざをついたり椅子に腰かけたりして、双方の目線の高さが同じになるようにしましょう。ひざをついて目線の高さを合わせます。互いに楽な姿勢です。立ってケアをするとあごが上がるため、誤嚥しやすくなります。ベッド上でケアをする際は、ベッドを30〜45度に傾けます。仰向けに近い姿勢だと、誤嚥しやすくなってしまいます。

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