デンタルアドクロニクル 2018
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6巻頭特集1-1超高齢社会の“歯科訪問診療”を考える 2018Dr. Tsuyoshi Kodama小玉 剛(こだま・つよし)公益社団法人 日本歯科医師会常務理事。こだま歯科医院(東京都東久留米市)院長。8020推進財団常務理事。著書に『診療室からシームレスにかかわり続ける全国10医院の歯科訪問診療』(分担執筆・クインテッセンス出版刊)がある。地域包括ケアシステムと在宅歯科医療 在宅医療は、患者の療養場所に関する希望や疾病の状況等に応じて、入院医療や外来医療と相互に補完しながら生活を支える医療であるといわれる。同様に、「食べる」、「話す」、「笑う」、という生きる楽しみを守り、その機能を回復させる。 在宅歯科医療は、地域包括ケアシステムの一つの役割として、患者を中心とした多職種との関係性を構築して情報を共有し、患者や家族に質の高い療養環境、看護、介護と医療を提供する。そのために日本歯科医師会は歯科のさまざまな役割を整理しながら(図1)1)、厚生労働省の全国在宅医療会議にも参画し、関係者との必要な協力体制を構築している(図2)2)。在宅歯科医療の状況3)と推進のための仕組みづくり①医療施設(静態)調査 在宅歯科医療を実施している歯科診療所の割合は、平成14年には18.0%と全体では限られたものであった。平成23年には20.3%となったが、平成26年は20.5%にとどまり、3年間でわずか0.2%の増加であった。居宅と施設に分けて、在宅歯科医療を実施している診療所と診療所当たりの実施件数(居宅、施設、訪問歯科衛生指導)の経年変化をみると、居宅で診療を行う診療所の割合は平成20年までは減少傾向であったが、平成23年以降は増加の傾向を示している。 また、施設等で実施する歯科診療所の割合が増加しているだけでなく、すべてにおいて実施件数は経年的に増加している。その中でも特に、平成23年以降の施設等への診療件数と歯科衛生士による訪問歯科衛生指導の件数の増加が顕著である。 厚生労働省の試算によると、2025年の在宅医療等の必要なサービス量は、2012年の一日12万人分から29万人分に増加すると予想され、今後は在宅歯科医療も含めたサービス提供体制の充実が必要である。②病院と歯科医院 地域、施設、病院とそれぞれの場において切れ目のない歯科保健医療提供のためには、その担い手の一つとなる歯科の診療科を標榜している病院との連携が必要であり、その割合は26.8%である。歯科標榜のある病院はない病院と比べて感染制御、栄養サポートチーム(NST)、摂食・嚥下、口腔ケア等のチームの設置割合が高い4)。 しかし、歯科標榜のない病院でもそれぞれのチームの約3%に歯科医師が参画している。たとえば、岩手県奥州市における歯科のない急性期病院でのNST連携から地域歯科連携への流れが構築されている。また、山口県周南地域における脳卒中地域連携パスを活用した例では、歯科口腔外科を有する急性期病院で実施している口腔健康管理を、歯科のない回復期病院、またさらに自宅や転院先でも継続できる取り組みが行われている。 このように急性期の病院へ入院した患者さんが、回復期を経て在宅・介護施設へと療養環境が変化するなか、「かかりつけ歯科医」として切れ目のない対応が可能なシステムの構築のためには、それぞれの時期の患者情報を集約し発信することができるキーパーソンとなる職種が必要である。先述した岩手県の例ではケアマネージャーが、また山口県の例では病棟看護師の役割が大きい。また東京都大田区のように、地域に出向くことのできる行政の歯科衛生士が要となることもある。③多職種協働に資する医学・歯学教育モデル・コア・カリキュラムの充実 平成28年度に6年ぶりに改訂され健康長寿延伸を支えるための在宅歯科医療の普及と充実日本歯科医師会 から見た“歯科訪問診療”

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