デンタルアドクロニクル 2018
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今後求められる人工歯とは 松風人工歯の変遷からみる、超高齢社会における多様なニーズへの対応79診療効率の向上と機能性を重視したVeracia SAを発売しました。陶歯のよさを改めて認識していただくべく弊社創立90周年の節目(2012年)にはVeracia SA Porcelainの臼歯を発売、2017年12月には実に46年ぶりとなる陶歯の前歯としてVeracia SA Porcelainの前歯を発売しました。 現行モデルはVeracia SA ANTERIORとVeracia SA POSTERIORになりますが、両側性平衡咬合を確立するための人工歯として、面と点の接触関係でファセットを設けている準解剖学的な人工歯です。前歯にも機能的なガイド面を設け、臼歯は、義歯床の維持安定化をはかるために低い咬頭と緩やかな咬頭傾斜角および展開角とし、どこからでも中心咬合位に収束しやすく設計した形態です。人工歯を削合せずに両側性平衡咬合を確立できる自然咬耗形態の人工歯として、臨床的なところで非常に有効な設計をしています。これが、今後、松風が進もうとしている準解剖学的な人工歯の特長です。 ここからは少し機械的な特性と化学的な特性をお話しさせていただきます。基本的には、回復した審美・咀嚼機能の維持が、人工歯にとっては非常に重要なポイントと思っています。人工歯に求められる特性は、耐摩耗性、耐衝撃性、審美性、耐変着色性、表面滑沢性、物理的・機械的特性のすべてにおいてバランスのとれた設計が必要であると考えています。 弊社の人工歯開発は、陶歯から始まりレジン歯へと移り変わり、硬質レジン歯へと引き継いできました。弊社としては創業の原点に立ち返り、陶歯のよさをみつめ直していただくという意味で陶歯を発売しましたが、次世代のニーズに応える材料開発が急務であると考えています。 以上、おおまかですが松風の人工歯製造の歴史と、現行のEndura のAnterioとPosterio、Veracia SAの特徴をまとめてみました。鈴木 今のお話は、大正14年に陶歯から始まって、レジン歯に移って、つぎに硬質レジン歯、また再び陶歯となった流れのなかで、解剖学的人工歯から準解剖学的、機能を考えながら長期安定性を求めて審美と機能を両立した、というお話でした。 硬質レジン歯を日本で最初に発売したこともあって、今でも硬質レジン歯のシェアはEnduraが一番ですか?出口 そうですね。今は45%前後になっていると思います。鈴木 Enduraは硬く感じるのですが、構造的にどうなっているのですか。出口 Enduraは機能性ウレタンレジンと有機系および無機系フィラーから構成されており、無機質の成分は約30%です。Veraciaはアクリル系レジンと有機系フィラーから構成されており、無機質の成分は10%以内です。鈴木 Enduraは着色するという症例をかなり経験しまして、その点、Veraciaは問題がないようですが。出口 Veraciaは、アクリル材料に近い設計にしています。審美的な機能を維持するという意味でも変着色を軽減しているのが特長と考えていただいて結構です。人工歯排列を行うにあたりどのような咬合様式を与えるのか?鈴木 それでは、各先生にお話をうかがう前に、人工歯排列にあたりどのような咬合様式を与えるのかについて私どもの研究結果をもとに簡単にお話したいと思います。 まずは、両側性平衡咬合は必要かどうかです。われわれの実験では、両側性平衡咬合を付与した場合、咀嚼時においても平衡側に接触があることがわかりました。普通、右側に食物が入ったら左側の歯は触らないはずなのですが、必ず触っていました。逆に反対側の平衡側の咬合調整をしないと、うまく噛めないこともわかりました。初期の段階では隙間があるのですが、多くの場合は先に平衡側に当たって、つぎに作業側が当たっているのです(図S-1)。咀嚼しているときにも平衡側の接触がいかに重要かわかりました。 かつてリンガライズドオクルージョンは、片側性平衡咬合とされていたのですが、両側性のリンガライズドオクルージョンが望ましいと変わってきました。もちろんフルバランスドオクルージョンも両側性です。あくまでも両側性であることが選択する咬合様式として重要という考え方になってきました。ただ、どちらを選ぶかと考えると、どうしてもリンガライズドオクルージョンのほうが調節しやすい。フルバランスドオクルージョンの調整は、咬合器上ならできますが、チェアサイドでは難しい。上顎の舌側咬頭が下顎の中心窩に当たる形で、リンガライズドオクルージョンは5点ずつみればよいのです。一方、フルバランスドオクルージョンはおいしく噛めるといわれています。そこで、私はタッピング時はリンガライズドオクルージョンで、側方運動時には図S-2のように頬側咬頭の内斜面を使う形にすれば、臨床的にはリンガライズドオクルージョンとフルバランスドオクルージョンの両方のよいとこ取りで誰でも達成しやすい咬合様式になると考えています。そこでVeracia SAの形態をみると、できるだけいじらなくて済む人工歯であり、リンガライズドオクルージョンという形もとれて、側方運動、前方運動もわずかな調整で済むところが、この人工歯を気に入っている1つの理由です。 別の実験で5名の歯科技工士に、市販の陶歯を使って、私の考える咬合様式をめざして削合させて、その削合量を測定しました。その結果、Veracia SA Porcelainが一番少ないというデータになりました(図S-3)。一番少ない削合量で咬合調整ができれば、技量の少ない者でも作業が優しいはずです。臨床経験が少ない者から多い者まで揃えたうえでこのような結果が得られたということは、Veracia SA Porcelainの優位性があるということですね。

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