デンタルアドクロニクル 2020
10/172

8巻頭特集1-2 人生100年時代に“歯科”ができること2020Dr. Ataru Ito伊藤 中(いとう・あたる)1990年、大阪大学卒業。1993年、大阪府茨木市にて伊藤歯科クリニック開業。私にとっての“人生100年時代の歯科医療” 超高齢社会に突入した日本の歯科界では今、摂食・嚥下や義歯治療など高齢者の歯科治療が注目されています。そのため、“人生100年時代の歯科医療”と聞くと、このことを連想される方も多いのではないでしょうか? もちろん、高齢の患者さんの口腔機能の低下にどう向き合うかは重要な課題です。一方で、私のようなかかりつけの歯科医院には、乳児から超高齢者まで、さまざまな年齢層の患者さんが来院します。そして若年者の多くは100歳以上まで生きると予測されています。現状では、100歳以上の患者さんを診療する機会はほとんどありません。しかし、100歳以上まで生きる人々はすでに大勢、診療所を訪れているのです。人生100年時代の歯科医療とは、時間軸をより強く意識しながら、必要十分な処置を継続的に提供していくことだと考えられます。“予防、メインテナンス”がキーワード 人生100年時代の歯科医療の大きな柱は、う蝕や歯周病の定期的なメインテナンスです。ここには、発症予防と再発予防のためのマネージメントが含まれています。このマネージメントを通して、患者さんの背景にあるものを深く知っていくことができます。患者さんと一緒に人生を歩ませていただくと言ったらほんの少しオーバーかもしれませんが、確かな信頼関係から育っていくはずです。患者さんに継続して来院してもらうためには? とはいえ、自覚症状のない患者さんに継続して来院していただくことは容易なことではなく、歯科医院としての何らかの取り組みが必要になります。 図1は、私の医院で製作している『お口の健康手帳』という30ページ程度の小冊子です。初診の患者さんには、以後これを診察券として受診のたびに持参していただいています。その中には、患者さんに知っていただきたいう蝕と歯周病に関する少し詳しめの解説と、歯科医院での定期的なケアやメインテナンスがなぜ必要なのかが書かれています。さらに、歯周組織の状態の変化を記録するページなどを入れて、患者さんの歯科医院への来院やセルフケアのモチベーションアップへとつなげています。 もう1つ、とても基本的なことですが、やはり患者さんの話をよく聞いて、そのうえできちんと説明することが重要だと思います。そして、その際に欠かせないのが、口腔内写真およびデンタルエックス線写真の提示です。私の歯科医院では、乳幼児~若年者(おおむね20歳まで)の患者さんには口腔内写真を年に1回、成人(20歳以上)~高齢者の患者さんには口腔内およびデンタルエックス線写真を4~5年に1回撮影していますが、こうして時系列で患者さんにご自身の口腔内の状態を写真で見ていただくことは、継続した予防処置やメインテナンスを受けていただくうえで非常に効果的だと感じています。人生100年時代に求められる広い知識 長い人生のなかで口腔内に起こるトラブルは、う蝕と歯周病だけではありません。乳児期、幼児期、若年期、成人期、高齢期それぞれにおいて注意すべきポイントが異なります。私のような一般開業医は、広い知識とある程度の技術を獲得する努力を続けていかなければならないと感じます。乳幼児から終末期の高齢者までの全世代に歯科医療サービスを提供する

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る