デンタルアドクロニクル 2020
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134に並んでいるように見えても、実は歯槽骨の中の歯根はあっちこっち向いてるかもしれない。結局それは後戻りの原因になります。もともと後戻りの少ないデイモンシステムですが、より治療の過失のリスクを低め、完成度を高めるためには、こうした歯根情報の可視化とそれを基にした治療計画・評価が必要です。以前は歯冠を並べることに注力していましたが、私はインシグニアで歯根をどう並べるかということを考えます。今まで見えていなかったものが見える、見なければいけない、触らなければいけないという矯正歯科治療へと変わって来ているわけです。星野 今CBCTの被曝量は激減しているので治療途中に撮影することもあるんですが、治療8合目から頂上までの細かいフィニッシングをどう行うかと考えるときに、歯根の情報があって、精度を高めつつ安全に頂上を目指すことができるのが、インシグニアのありがたさですね。高 CBCTがなければ、歯冠の向きに合わせて画像上に既製の歯根を付け足し、シミュレーションすることもできます。CBCTの情報の精密度には劣りますが、概略的なシミュレーションが可能です。有益な患者さんとのコミュニケーションツールにもなる高 コンサルテーションしていても、患者さんは歯並びがきれいになればそれでいいと思っているから、あまり治療計画やその選択に興味をもってくれないことがありますよね。そういうときにもインシグニアは有用で、画面で今あなたの歯並びはこの状態で、歯を抜く治療Aをしたらこうなります、歯を抜かない治療Bをしたらこうなります、私はこう治したほうがいいと思っているんです、とシミュレーション画像を見せながら話ができるんですね。顔貌もどんな風に変わるか、正面観で確認できる。歯科医師がどういう治療を考えているかという情報をプレゼンし、共有できるんです。説明もすごく簡単にできますし、患者さんの理解も非常にスムーズで、お互いに恩恵を受けられるなと感じます。 未来をつくることのできる技術と歯科治療により多くの叡智を星野 インシグニアをはじめこうしたデジタル技術は、結果として矯正歯科治療に非常に価値のあるアナログ的情報を与えてくれます。数値だけにとらわれず、体、そして歯や歯槽骨、顎骨、軟組織すべてが立体だということ、それらをダイナミックなアナログ的情報としてとらえるために、活用してもらいたいですね。高 歯科医師は経験を積むと、全体や各部位を立体として見ることができるようになりますけれど、そういった数字を超えた感覚的なものをこのインシグニアで具現化できるようになってきているので、ぜひその感覚をつかむためにも活用してほしいです。経験の浅い先生が使ってもより良い治療ができる、すでに経験のある先生はさらに高みを目指せるというのが、こうした技術の利点といえるでしょう。デジタル技術には今使っている私たちの経験が集約されたビッグデータがどんどん反映され、今まで誰も経験したことのないようなものへと進化していくと思うので、何千人何万人とより大勢の歯科医師の叡智が集まり、より安全な医療が実現すればいいなと思っています。星野 みんなが求めていたことですよ。それを考えるとわくわくしますよね。(了)取材協力:広尾ほしの矯正歯科

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