デンタルアドクロニクル 2020
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12巻頭特集1-4  人生100年時代に“歯科”ができること2020Dr. Yasuhiro Nagano長野靖弘(ながの・やすひろ)医療法人社団徳治会 長野歯科医院院長。1988年、神奈川歯科大学卒業。1995年、医療法人社団徳治会吉永歯科医院勤務。1997年、医療法人社団徳治会長野歯科医院開院。2019年6月より、熊本県歯科医師会地域保健担当理事。日本口腔インプラント学会会員、 日本補綴歯科学会会員、 日本歯周病学会会員、日本歯科医療管理学会会員、日本摂食嚥下リハビリテーション学会会員、 ICOI Fellow、日本顎咬合学会認定医、日本口腔感染症学会院内感染予防対策認定医、介護支援専門員、NPO法人介護の輪監事。はじめに 訪問歯科診療を始めて以来、試行錯誤を重ねながら25年が経過しました。途中、ケアマネージャーの勉強をすることで、多職種の人との関わりが増え、口腔の健康が全身の健康に与える影響の大きさに改めて気づきました。 すべてのライフステージで患者に関わることのできる医療機関は歯科だけです。同じ家族の4世代を同時に診ていたときもありました。かかりつけ歯科医として、ホームデンティストとして、健康寿命の延伸・オーラルフレイルの予防に寄与できるよう、それぞれのステージでお口のサポートができればと思います。口腔機能障害と予備能 ~訪問歯科診療における義歯の提供を通して~ 訪問歯科診療は通院困難な高齢者・障がい者の方を対象とし、① 咬めるように、歯の治療や入れ歯の製作・修理、 ② 口の中の汚れた人には器質的口腔ケア(クリーニング)、③ 口腔機能の低下した人には機能的口腔ケア(リハビリ)、を行います。 超高齢社会となり、平均寿命が長くなると、寝たきりや認知症が増加します。すると、口腔関連の老化による廃用(開口障害、筋力低下、喉頭下垂)、意思疎通・食形態の変化などさまざまな問題が起きてきます。 また、義歯の意味合いも変化していきます。すなわち、①咀嚼のための義歯、だけではなく、②嚥下のための義歯、③食塊形成のための義歯、④審美のための義歯、⑤咬傷防止のための義歯、⑥リハビリの道具としての義歯、⑦転倒防止のための義歯、などです(図1、2)。 このように、口腔機能に障害がある人には、ニーズの多様化に応じた義歯が必要です。そのため、①口腔機能の診査、②食形態の検討、③咬合高径の回復の検討、④義歯の使用方法の提案、⑤義歯の管理方法の提案、を行います。なおかつ、全身状態や認知度などを考慮し、トータルに受け入れられる義歯を提供しなければなりません。 また、予備能とは「最大活動量から日常生活の活動量を引いたもの」です。加齢による機能低下で、最大活動量は低下し、予備能も当然低下します。すると疲労しやすくなり動作時間の延長にも繋がります。食事時間が長い人は疲れて途中でやめる場合もあります。これに、脳血管障害、認知症、寝たきり、廃用症候群などが加わると予備能はさらに低下し、摂食嚥下障害の助長にも繋がります。摂食嚥下障害は咀嚼機能に大きく関係し、その際の機能は残存歯数に大きく影響されます。 咬合と咀嚼の関係として、「咀嚼力=咬合支持×口の力強さ・巧みな動き×認知機能」という公式があります。 咬合支持は咬合回復によって、口の力強さ・巧みな動きは口腔運動訓練によって、そして認知機能は初期の段階で集中的・積極的な介入により口腔内を整備しておく必要があります。 訪問歯科診療の現場で多くみられる、予備能の低下した老年期の患者の嚥下機能を向上させることはとても困難です。それよりも摂食・咀嚼・嚥下の専門家として、外来・訪問を通して早期の欠損歯列を放置しない処置のほうが易しく、老年期での予備能の低下に対する備えとなります。オーラルフレイルと口腔機能低下症 プレフレイル(社会的・心理的フレイル期)とフレイル(身体的フレイル期)との間にオーラルフレイル(栄養のフレイル期)があるといわれています。フレイルはその後、重度フレイル期(障害を持った要介護状態)へ進んでいく場合もあります。 オーラルフレイルが進んだものが口腔機能低下症、それがもっと進んで後戻りができない状態が口腔機能障害で補綴治療による健康寿命の延伸・オーラルフレイルの予防

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