デンタルアドクロニクル 2020
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14巻頭特集1-5人生100年時代に“歯科”ができること2020超高齢社会におけるインプラント補綴 私が訪問歯科診療に従事するようになってから10年以上経ちます。介護の現場ではここ数年、インプラント補綴治療を受けている患者さんが見られるようになってきました。しかし、まだインプラント補綴の認知度は低く、実際に歯科医療従事者が口腔内を確認して初めてインプラントの補綴が装着されていると発覚することがよくあります。さらに、本人が認知機能の低下などで意思の疎通が難しく、家族に治療の内容を確認したところ、インプラント治療の事実をまったく把握していない場合もあります。 要介護状態になった際のインプラント補綴への対応について議論されるようになってきていますが、中にはこのような状況からインプラント自体を避けるべきという論調もあり、超高齢社会におけるインプラント補綴の対応が問題になっています。要介護高齢者の現状 要介護高齢者は身体的、または精神的機能の低下が見られ、その中で低栄養状態を呈する症例も少なくありません。在宅高齢者の約9割が経口摂取しているものの、実際は低栄養である者、低栄養のおそれのある者と合わせて約6割近くになるとの報告1)もあります。さらに、在宅高齢者で定期的に歯科受診している割合は12%とも報告1)されており、口腔内の管理が十分であるとは言えません。実際に介護の食事では咬合が崩壊して咀嚼できずに口腔内に溜め込んでしまい、経口摂取が円滑に進まない場面に度々遭遇します。咀嚼の重要性 摂食嚥下障害で問題になる誤嚥は、咽頭期で起こることが多いと言われていますが、準備期、口腔期にその原因がある場合が少なくありません。嚥下機能評価では嚥下内視鏡検査を行いますが、右頁図のように咽頭残留を呈する症例で食塊形成が不十分な症例をよく見かけます。不適合義歯の装着例や臼歯咬合が崩壊した状態のまま放置されていることがあります。このように誤嚥の原因として臼歯咬合に問題があり、咀嚼が十分に行われていないことが介護の現場では見受けられます。 嚥下機能が低下して起こるといわれる窒息事故の約8割は70歳以上の高齢者であるとの報告2)もあり、不慮の事故による死因の第1位にも窒息事故が挙げられています。要介護高齢者にとって窒息事故は切実な問題なのです。 要介護高齢者での窒息事故を引き起こす危険因子を危険度の高い順に挙げると、①食事の自立度、②臼歯部の咬合喪失、③認知機能の低下となります。臼歯部の咬合喪失が窒息の危険度の2番目に高いものであり、咀嚼機能が窒息事故に大きな影響を及ぼしていることがわかります。咬合を確立して咀嚼機能を維持していくことは、要介護高齢者の誤嚥や窒息事故予防に非常に重要なのです。咀嚼機能と加齢変化  咀嚼機能は基礎疾患がなく、しかも歯が揃っていれば年齢に関係なく高い咀嚼機能が維持されると考えられています。言い換えるなら、咀嚼機能は加齢よりも残存歯数に大きく影響されます。さらに、残存歯が喪失したとしても義歯やブリッジ、インプラントなど補綴装置を含めた機能歯という考え方が重要であり、機能歯が十分にあれば嚥下調整食ではない、いわゆる普通食を食べることができたとの報告3)もあります。咬合支持域をどれだけ長く維持させるか、欠損が生じた場合は早く補綴処置を行い改善することが非常にDr. Takaaki Sonoda園田隆紹(そのだ・たかあき)1997年 鹿児島大学歯学部卒業2001年 鹿児島大学大学院歯学研究科博士課程修了2004年 鹿児島大学医学部・歯学部付属病院全身管理歯科 助手2005年 医療法人共愛会 共愛歯科医院「人生100年時代」では、患者が要介護状態になることも想定してインプラント補綴に取り組んでほしい

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