デンタルアドクロニクル 2020
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16巻頭特集1-6 人生100年時代に“歯科”ができること2020Dr. Takashi Kumagai熊谷 崇(くまがい・たかし)1942年東京都生まれ。日吉歯科診療所理事長。1968年日本大学歯学部を卒業。1971年に神奈川県横浜市で開業後、1980年、山形県酒田市に移転し日吉歯科診療所を開業。1999年にスウェーデン・マルメ大学歯学部から名誉博士号を授与される。全国各地の大学で講師を歴任するほか、継続的に研修を実施。2020年度から東北大学の協力型臨床研修施設として研修医の受け入れを開始する。テレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」「カンブリア宮殿」「未来世紀ジパング」、月刊誌「文藝春秋」などでその予防歯科の取り組みが紹介され大きな反響を呼んだ。人生100年時代は少子高齢・人口減少時代 これから到来する人生100年時代は、医療や老後についての考え方が根幹から揺さぶられ、変革を迫られる時代になると私は思っています。若者が減る一方、高齢者がさらに長生きしてその割合が増え続けている日本で「歯科ができること」とは何か。それはすなわち、「少子高齢・人口減少」を前提に、歯科の進むべき道を考えることにほかなりません。 日本の人口減少カレンダーによれば、今年2020年には女性の過半数が50歳以上となり、出産可能な女性が大きく減りはじめます。2024年には団塊の世代が75歳以上となり、医療や介護の社会保障費が大きく膨らみはじめます。このままでは医療、介護、年金が立ち行かなくなる、という予測が現実味を帯びはじめています。 これからの歯科は、健康保険の基盤が盤石だった頃から続く「治療中心の診療モデル」を根本から見直す必要があると思います。じつは私は、今後拡大する社会の変化に即応することが、歯科医療の未来を拓く突破口になると考えているんです。 少子高齢社会の日本を救う鍵、それは「予防メインテナンス」です。歯科が治療中心から予防中心へ、つまり対症療法から原因療法に舵を切る。すると社会はどう変わるでしょうか?予防で「生涯現役」の高齢者を増やす 予防をして健全歯が増えれば、当然再治療も減ります。再治療の繰り返しが止まると、高齢者のお口に多くの歯を残すことができる。28本の歯を残すことを目標に、カスタマイズ型の予防メインテナンスを提供する。これが当たり前に行われるようになると、おそらく社会の構造が変わります。 まず、確実に高齢者の健康寿命が延びます。自分の歯が揃っている高齢者は、QOLが向上し、からだも元気で活動的です。私たちの臨床実感を裏打ちする調査結果が続々と報告されていますよね。 歯科の予防メインテナンスで、どれくらい歯を残せるか、日吉歯科診療所のデータ(表1)をご覧ください。 55歳以上の患者さんが予防メインテナンスに21~30年継続して通った場合、再治療が激減し、失った歯は1.8本でした。この結果は、スウェーデン・イエテボリ大学のアクセルソン先生のデータと一致します。もっと若い頃から予防メインテナンスをはじめることができれば、一生涯28本の歯を残すことだって十分実現可能でしょう。 人生100年時代は、65歳で定年を迎えたあとまだ35年あります。この35年を入れ歯で過ごすのか、よく噛める自分の歯で過ごすのかで、第2の人生ならぬ「第3の人生」のQOLはま歯科だからこそ可能な予防メインテナンスで生涯現役社会の実現へ!表1 定期的メインテナンス開始後に失った歯の本数は?日吉歯科診療所、2008年12月のデータより初診時の年齢 20〜34歳35〜44歳45〜54歳55歳〜〜10年(2967人)0.10.10.20.311〜15年(767人)0.20.20.81.116〜20年(370人)0.40.61.20.921〜30年(344人)0.31.01.31.8継続来院年数

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