デンタルアドクロニクル 2020
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17人生100年時代に“歯科”ができること2020  巻頭特集1るで違ったものになります。 歯を残し元気に年をとれば、役割を変えながら仕事を続け、生涯現役でいられる。あらたなチャレンジやボランティアだっていい。生きがいがあれば、社会的廃用なんて起きません。 たとえば私はあと3年で80歳ですが、80歳過ぎても元気に働き税金を納められたら、ちょっといいですよね。歯科の予防メインテナンスで28本歯を残した高齢者が、生きがいをもって元気に働く人生100年時代。今後、深刻な人手不足と財政悪化が予測されていますが、それなら歯科が元気な高齢者をどんどん社会に送り出せばいいんじゃないか。社会保障費増大の抑止力に 予防中心の診療がもたらすもうひとつの効果は、財政を圧迫する社会保障費の削減です。歯科の医療費は、総体としては目立ちませんが、現在65歳以下の国民の医療費ではトップです。 「予防では医療費は減らない」という説もあります。しかし、歯科は違います。歯科の予防メインテナンスは80年代のはじめにその方法が確立され、以来欧米を中心に、世界中で結果を出しています。予防を中心に据えれば、医療費が削減できる。歯科ほど予防が得意な医療分野は、他にありません。 歯が残っている高齢者が増えれば、医科の医療費も、介護費用も減るでしょう。限られた財源を大切に使い、必要とする人に必要な社会保障を届けるには、防げる病気は確実に防ぐこと、これに尽きます。 現在の国民皆保険制度の設計は、人口が増え続けていた時代につくられています。制度の支え手が減るなか、治療中心の診療を続け、少ないパイを奪い合っているうちに制度そのものが立ち行かなくなれば、自分で自分の首を絞めることになりかねません。 そこへいくと予防メインテナンスは自費診療ですから、社会保障費の増大を加速させる心配はなく、むしろ削減に貢献でき、国民の健康増進に役立つ。なにより、患者さんがとても喜ぶから、毎日仕事が楽しくて仕方がない。 かつては私も、「予防メインテナンスを保険に組み込めたら」、と思っていた時期がありました。しかし、その大手術ができる余力が国にあった時期は、とうに過ぎたと思っています。人生100年時代の健康観を育てる  「自費診療では患者さんに受け入れてもらえない」「都会でないと難しい」という歯科医院は多いようです。しかし、それは本当でしょうか。美容院に毎年平均4万円以上も払っているという国民が、予防には払えないと?  予防に価値を見出せば、かならず患者さんは選んでくれます。なぜなら、発症を防ぎ、再発を止める医療こそ、患者さんが本来求めているものだからです。その結果、予防はすでに世界の歯科のスタンダードになっている。確実に結果が出せるプログラムも用意されています。健康管理に熱心な人がこれだけ多い日本で、実現できないわけがないですよね。 日本では、有識者や著名人でも歯で苦労している人は多いです。それは、寿命がまだ短かった頃の行動規範のままで過ごしてきたからでしょう。気づいたときには歯が悪くなっていて、「もっと若い頃から予防しておけば」とみんな後悔しています(表2)。 人生100年時代は、老後がさらに長いのです。患者さんのお口のなかの問題点を洗い出し、その情報を患者さんと共有し、改善法をクリアに示して、「第3の人生をどう過ごしたいですか?」と問えば、「美容院に払う程度の費用で歯を守れるなら」と、予防を望む人が増えるのは当然の流れです。ただし、受けてみたら「なんちゃって予防だった」ということでは、患者さんの期待が失望と不信に変わるのはあっという間でしょうが……。 人口減少時代に、患者さんに選ばれる予防中心の医院へと転換するには、早めの決断が重要だと思います。対症療法から原因療法へとシフトすることによって、歯科は健康を重要視している多くの人々にとって、もっとも頼りになる医療分野になるでしょう。 10年後、20年後に、同じく少子高齢化に悩む先進国から「日本の人生100年時代はなかなかいいね」と言ってもらえるかどうか。歯科医療従事者として、当事者意識をもって診療にあたっていきたいものです。(談)「プレジデント」2018年1月1日号より(人)02010807060504030歯肩目腰下半身耳頭首過半数が「歯」と解答64312621101098表2 40代のうちからメインテナンスしておくべきだった からだの部位は?(複数回答)著名シニア100人老後の後悔ジャンル別[健康編]

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