デンタルアドクロニクル 2020
26/172

インプラント治療の短期的な安心と安全のためにコミュニケーションと患者さんの理解長尾 安全なインプラント治療を行ううえで、どのようなことをされているのかを教えてください。松永 安全なインプラント治療を行うにはポイントがあり、まず短期的な視点からお話させていただくと、「患者さんにインプラント治療の安全性を理解していただくこと」から始まります。患者さんはインプラント治療に対して、さまざまな不安を抱いているため、インプラント治療を勧めるにあたっては、治療の安全性を確保するために我々が行っていることを見える形でしっかり説明し、安心していただくことが最初のステップです。 そのうえで「患者さん自身の持つリスク」を伝えます。ほとんどの患者さんは歯周病であることや、歯を失ったという状況はわかっていますが、なぜそのような状態になってしまったのか、それが今後どのような影響を及ぼすのかは理解していません。長尾 患者さんが歯を失うに至った原因と、そのことによって起こるリスクについて、私たち歯科医師が理解できていることを患者さんと共有して、そのリスクヘッジのために何が必要かを理解してもらうことが大切なのですね。松永 そのとおりです。そのためにコンサルテーションは十分に時間をかけて行います。どの医院でも同じだと思いますが、CTを撮って模型診断や口腔内写真といったさまざまな検査・診断に基づく情報を簡潔にまとめて伝えます。そして、患者さんに自身の症状と治療内容を理解していただいたうえで、治療に移らないといけません。インプラント治療の長期的な安心と安全のために長尾 次に、患者さんに長期にわたって安心・安全にインプラントを使っていただけるよう、先生が取り組まれていることを教えていただけますか。松永 長期的なことを考える際、インプラント周囲炎を防ぐことは必須です。 インプラント周囲炎は、インプラント周囲骨の吸収を生じることから起因すると考えられています。このインプラント周囲骨の吸収は、患者の経年的な骨吸収と異なり、術者の手技や材料選択によって引き起こされることが問題であると考えられています。 その要因として3つの事項が懸念されており、その1つ目はインプラント上部構造の材料選択です。生体親和性の高い材料を用いることでインプラント周囲組織の炎症を少なくすることが示されており、これは現在のCAD/CAM技術を用いて生体親和性の高いジルコニアやチタンをアバットメントや上部構造に用いることで対応が可能となっています。 2つ目にインプラント上部構造の固定様式の影響があるとされています。セメント固定の場合、残留セメントが炎症を引き起こし、骨吸収の直接的な要因になっていることが報告されています。このことから、可能な限りスクリュー固定式の上部構造を用いることが望ましいと考えられています。 さらに、3つ目の要因としては、インプラント周囲組織の温存が挙げられます。近年主流として用いられている骨レベルインプラントでは、インプラントのプラットフォームが骨縁下に埋入されているため、アバットメントなどの着脱を繰り返すことでインプラント周囲の骨吸収が早期に引き起こされることが指摘されています。その対応として私は、インプラント周囲の硬・軟組織に対し着脱による侵襲を与えない、ノーベルバイオケア社のOn1ベース・アバットメントを積極的に用いるようにしています。インプラント埋入後に、インプラント‐軟組織の界面にこのアバットメントを装着し、その後は取り外すことはありません。 そのため、硬・軟組織に対して刺激を与えることなく、さらにアバットメントと軟組織との付着によるシーリングを壊さないためインプラントへのバクテリア感染を防ぐことができ、その結果としてインプラント周囲硬・軟組織の退縮を防ぐことができます。このコンセプトのもとでインプラントに取り組んで2年が経ちますが、非常に安定しています。 現在、自身の術後10年超の症例を振り返ると、何かしらの問題発生とこの着脱による軟組織の安定性の喪失との関連を感じ始めています。長尾 これは松永先生だけではなく、世界中の歯科医師が取り組んでいる問題だと思います。ノーベル・バイオケア社に頑張ってもらって、On1コンセプトを広めていただきたいですね。インプラント安全宣言―短期的な安全と長期的な安全を考える― インプラントのリーディングカンパニーであるノーベル・バイオケア社では、安全なインプラント治療について、単に安全に手術を終えるという短期的なことだけではなく、長期にわたって安定した治療結果を口腔内に維持させるという、短期的・長期的な視点から考えている。ノーベル・バイオケア社の製品を用い、臨床において短期的・長期的な安全を実現している松永興昌氏の取り組みについて、長尾龍典氏に聞いていただいた。(編集部)松永興昌福岡県開業:松永歯科クリニック福岡歯科大学 咬合修復学講座 臨床教授日本口腔インプラント学会代議員長尾龍典京都府開業:ながお歯科クリニックICOI (国際インプラント学会)認定医・指導医日本口腔インプラント学会会員24

元のページ  ../index.html#26

このブックを見る