オールデンタルで迎え撃つwithコロナ時代 巻頭特集113知しておく必要があります。管理者は、当該従業員に保健所への相談などを指示した後、その結果の把握に努め、感染が確認された場合は、①当人との接触状況を各従業員から聴取、②職域内の消毒・除菌、を行います。このためには、消毒剤、散布容器、グローブ・個人防護具などの常備を要します。 その後の重要な対処が取引先歯科医院への報告です。この内容は、①感染者数と状況、②営業担当者の感染の有無、③マニュアルにより対処していること、④受注物の扱い（納期・消毒方法）などであり、迅速な報告が信頼関係の維持にも必要です。なお、これらの対処の際、感染者のプライバシーに対する配慮は不可欠です。２）歯科技工所の日常業務での対策 唾液から、鼻の粘膜と同等量のSARS-CoV-2が検出されることから、歯科処置での唾液の厳格なコントロールが不可欠となり、歯科技工の現場でもこれを踏まえた対処を要します。とくに、①マスク・アイガード・作業着・グローブなどの常用、②衛生的手洗いの励行、③作業環境の日常消毒、④未消毒模型の除菌、は必須であり、この災禍が終息したとしてもこれらの対策が緩和されるべきではありません。３）印象体から模型製作過程での対策 現在、歯科界はデジタル化への移行期にあるものの、歯科技工所の受注の大半は石膏模型であり、たとえ平常時であっても印象採得から作業用模型作製までの間に何らかの感染対策が必要です。図２はそのフローチャートであり、一次洗浄（図２中の矢印W）の後、次の①～③のいずれかの対処が必要です。①歯科医院での印象体専用除菌剤等による除菌※（図２中の矢印A）、②未除菌の石膏模型に対する歯科技工所内での除菌（図２中の矢印B）、③受注石膏模型に対する除菌は行わず、手指洗浄や個人防護具等で対応（※薬機法では「消毒」という用語は医薬品と医薬部外品に限定されるため「除菌」と表記）。 上記①の作業の実施は歯科医院の意向に委ねられますが、前述のZONEの３要件を満たす最善の選択肢です。 歯科技工所では、受注模型に対する歯科医院での①の処理が確認できない場合は②または③の対処が必要です。しかし、石膏硬化物は多孔質で、加熱により結晶水が分離するため②は次善策であり、③も効果は限定的です。４）印象体に対する除菌 上項①の印象体に対する除菌は、塩素系印象体専用除菌剤の「インプロステリンプラス」（太平化学産業）または「クロルアンカー」（サンエス石膏）の調製液に一次洗浄後の印象体を浸漬・水洗の後、通法どおり石膏泥を注入します。なお、塩素系印象体専用除菌剤によるハイドロコロイド系印象体の寸法精度への影響は微少です2。５）歯科技工所での未除菌模型に対する除菌 受注した石膏模型のうち、印象体の段階での感染対策が確認できない症例は歯科技工所内で次の手順での除菌が必要です。①塩素系除菌剤「TBS錠」（アグサジャパン）１錠を1リットルの水に溶解し1,000ppmの溶液を調製、②調製液を満たした蓋付きの容器に模型を約10分間浸漬、③浸漬後の模型を他の蓋付き容器に移し、模型作製作業まで静置、④模型を流水で軽く濯いだ後、模型に塩素中和剤「TBSバッファ」（アグサジャパン）を噴霧の後、通法どおり模型調製を行う。６）完成後の補綴装置等の消毒・除菌 歯科技工所は、ZONEの要件に則り、納品前の補綴装置などに感染対策を施す必要があります3。この際の消毒方法としては、小規模技工所でも導入しやすい「紫外線消毒方法」を推奨します。紫外線は、殺菌効果は強力であるものの、紫外線の陰には効果がないなどの難点はありますが、複数の紫外線灯を装備するなどの対策を講じた製品の使用を推奨します。図１ 「ZONE」の概念。図２ 模型製作過程と感染対策の時機。歯科医院歯科技工所（院内技工室）技工机診療ZONE技工ZONE患者ZONE患者ZONE技工消毒ZONE消毒ZONE石膏作業台消毒エリア受付技工ZONEでの塩素系溶液への浸漬診療ZONEでの専用除菌剤による除菌診療域でのタンパク質等の有機物除去診療ZONE診療ZONE印象採得洗浄（一次洗浄）印象体石膏泥の注入石膏模型WAB参考文献1．Bond WW, Favero MS, Petersen NJ, Gravelle CR, Ebert JW, Maynard JE. Survival of hepatitis B virus after drying and storage for one week. Lancet 1981; 1(8219): 550-551.2．佐藤晶子，大西正和．試作除菌システムが印象採得物の寸法変化に与える影響について．日歯技工会誌 2006；27(2)：177．3．大西正和．歯科補綴物等の消毒．日本歯技 2005；428：1-7
元のページ ../index.html#15