デンタルアドクロニクル 2021
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オールデンタルで迎え撃つwithコロナ時代  巻頭特集117(H1N1型インフルエンザ)のパンデミック下で行われた調査ですでに指摘されていました。この調査とは、米国歯科医師会研究所初代所長だったウェストン・プライス博士(1870-1948)が、大著『DENTAL INFECTIONS, Oral and Systemic』のなかで明らかにしているもので、ワクチンも特効薬もないパンデミック下の米国人と英国人260人のお口のなかを調べた記録です。 これによると、歯周病になっている人のスペイン風邪の罹患率は72%に達し重篤になった人も多かったのに対して、歯周病になっていない人の罹患率は32%、つまり半分以下だったというのです。 現在の研究では、なぜこのような大きな違いになって現れたのか、その根拠が示されています。なぜ歯周病の予防が感染リスクを下げるのか ウイルスが口腔内の粘膜細胞に感染し体内に入り込むとき、細胞の膜にあるレセプター(受容体)を見つけ、そこに吸着してウイルスの膜と粘膜細胞の膜を一体化させ、自分の遺伝子を細胞に放り込み、細胞を乗っ取って増殖していきます。しかし粘膜細胞は豊富な粘液で覆われておりウイルスの侵入を妨げてくれるので、ウイルスはそうやすやすとレセプターを見つけることはできません。 ところが、口腔内に歯周病菌が増殖していると、歯周病菌の出す毒素が粘液の層を破壊しレセプターが露出するため、ウイルスの吸着が容易になり、粘膜細胞の乗っ取りがやすやすと行われてしまうのです。 「プラークを除去して歯周病の予防管理をすると、ウイルス感染のリスクを下げられる」。このことはインフルエンザウイルスの研究から明らかになりましたが、新型コロナウイルスも、インフルエンザウイルスと同じく、細胞のレセプターに吸着して侵入することから、おそらく同様の現象が起きていると考えられます。 また、口腔ケアがインフルエンザを予防することもわかっています。しかも、インフルエンザの感染に加えて 口腔・咽頭細菌が混合感染すると、重篤な肺炎を発症させ、死亡率が極めて高くなることも明らかにされており、新型コロナウイルス感染でも同様なことが起きる可能性が指摘されているのです。Withコロナの現在とAfterコロナの未来のために 「Science」誌には、ソーシャル・ディスタンスは2022年まで、場合によっては2024年まで続ける必要性があると発表されています。一方、希望となる研究報告もありました。新型コロナウイルスは回復後の再感染が指摘されていますが、回復者のほとんどが半年後もウイルス抗体および中和抗体を保有していると明らかになったのです。このことは、安全で有効なワクチン開発を後押しする情報であると思います。 厳しい状況のなか、野口英世の「困難な時こそ立ち向かえ」という言葉が繰り返し思い出されます。歯科医療や口腔ケアに支えられるオーラスヘルスは、感染リスクを低下させ重症化を防ぐ役割を果たしています。今後しばらく続いていくWithコロナの時代、歯科医療の役割はますます重要になっていくでしょう。 歯科医療従事者自身が明確に自らの日常臨床の重要性を認識し、オーラルヘルスの意義を患者さんに伝え、社会全体へと広げていくこと。感染拡大の抑制、そしてAfterコロナの時代に予想される新たな脅威の出現に備えるためにも重要だと感じています。(談)「nico」2020年7月号より/イラスト:大滝まみ歯周病菌がウイルスを手引きする!細胞の入口、レセプターが丸見えに!2毒素でウイルスがパワーアップ!侵入も容易になり感染のリスクが上がります!!3歯周病菌が毒素を出して粘液の層を破壊!1粘液ノドの粘膜細胞ウイルス歯周病菌レセプター

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