デンタルアドクロニクル 2021
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良くない石油系の合成界面活性剤であったことが原因です。これに対して当社は、環境負荷の少ないヤシの実の油を使った植物性の「ヤシノミ洗剤」(図4)を作りました。 1990年代には当時問題となっていた生活習慣病、特に糖尿病に着目し、食品開発に取り組むようになりました。糖尿病は砂糖の摂取をできるだけ控えなければなりません。そのため、砂糖の代わりなるものが必要なのですが「化学合成の人工甘味料ではなく何か天然のもので作れないか」と考え、世界中のいろいろな植物を探しました。その結果、中国・桂林が原産のウリ科の果実である羅らかんか漢果という植物にたどり着きます。この果実に含まれる甘味成分は砂糖の300倍ほどの甘さがあり、これを抽出する技術を開発して、エリスリトールという糖アルコールに加えた「ラカント」(図5)という商品を作りました。カロリーゼロで、血糖値にもインスリン分泌にも影響しないということで、糖尿病の方の食事に活用していただけるようになり、現在ではダイエットをしている多くの方々にも使っていただいています。これも一種の予防的な食品開発だったと思います。 他にも創業原点である手洗い石けん液から衛生事業を進めていくなか、1970年代にアルコールの手指消毒剤(図6)を開発しました。アルコールは水道設備のないところでも手軽に手指消毒ができるのが特長です。昔は消毒剤を洗面器に入れて患者様を診察するたびに、そこで手を洗っていたわけですが、手を洗うたびに効力が薄れて逆に汚染源になってしまいます。これでは患者様に病気をうつしてしまう心配があるということで、許可を受けてアルコールによる手指消毒の普及を始めました。健康長寿延伸のための「予防」オーラルケア市場に本格参入――「予防」を原点としてさまざまな製品開発に取り組まれてきたサラヤ社あまの・あつお1984年、大阪大学歯学部卒業。1992~1994年、米国・ニューヨーク州立大学歯学部博士研究員。2000年、同大学大学院歯学研究科口腔生物学分野教授。2011年、同大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座予防歯科学分野教授。同大学大学院歯学研究科附属口腔科学フロンティアセンター長。2015~2019年、同大学大学院歯学研究科長・歯学部長。図5 ウリ科の植物・羅らかんか漢果から生まれた甘味料「ラカントS」。図6 左:手指消毒剤「ハンドサニターS」(1979年発売)、右:速乾性手指消毒剤「ヒビスコール液」(1990年発売)。199519791990ですが、オーラルケア市場に参入することになったきっかけについてお聞かせください。更家:現在は、医療や福祉の分野でもお仕事をさせていただいています。超高齢社会の日本において、健康長寿社会の実現のために高齢者の感染症予防を考えると、実は今回の対談のメインでもある口腔衛生が非常に大きなファクターであると思っています。当社はうがいに関する製品開発に取り組んでいたのですが、歯周病対策をはじめとして口腔機能を長く維持していくための開発が必要だと感じました。また、先ほど述べたラカントの開発を通じて糖尿病の研究を進めていくと、歯周病健康長寿社会の実現に向けた の挑戦51

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