歯科衛生士 ダイジェスト見本誌2024
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全身疾患別チェックリスト&9DHが確認すべき主なポイントがわかるノルバスク、アムロジンアジルバ、オルメテック、ミカルディス、イルベタン、アバプロ、ニューロタン、ディオバンレニベース、コバシル、タナトリルナトリックス、フルイトランプレミネント、ミコンビ、ミカムロ、ザクラス、アイミクス、ミカトリオアダラート、メインテート、セララ慢性的な血圧上昇から死に至ることもある 高血圧とは、慢性的に血圧が上昇している病態をいいます。高血圧が続くと、動脈の壁にある細胞(内皮細胞)が障害を受けます。内皮細胞が障害されると、動脈硬化が進行し、動脈が狭くなったり、詰まったり、破裂したりしやすくなります。その結果、脳、心臓、腎臓などの生きていくために必須の重要臓器が障害され、脳血管障害、心筋梗塞、高血圧性腎症、大動脈解離などを引き起こし、死に至る可能性が高くなります3。高血圧は自覚症状がないことが多く、サイレントキラーとも呼ばれています。このような死を含むリスクを低下させるために、血圧を下げる薬(降圧薬)が処方されます。低血糖を起こしやすい①>②>③2型糖尿病に有用で心不全や腎障害などへの効果も期待される薬剤配合薬誤嚥に注意し、119番通報糖尿病の治療薬が他の疾患にも使用されるように大渡凡人Tsuneto OWATARI九州歯科大学リスクマネジメント歯科学分野口腔保健・健康長寿センター教授(兼任)・歯科医師(文献7より引用改変)知っておきたい全身疾患高血圧歯科診療で避けることできるだけストレスを与えないようにする 高血圧の患者さんは、血圧が180/120mmHg以上になり、脳、心臓、腎臓、大血管などに障害が発生する高血圧緊急症という病態6になることがあります。高血圧緊急症になると死亡する可能性が高くなるので、ただちに入院し、ICU(集中治療室)などでの緊急降圧が必要となります。処方されやすい薬剤一覧糖尿病April 2023 vol.47P034-049_DH04_toku1.indd 37めます。治療には経口血糖降下薬が使われますが、血糖コントロールが困難な場合はインスリンも使用されます。糖尿病で注意すべき点は、低血糖と腎臓、脳、心臓などの合併症です31。低血糖は、インスリンやスルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬を使用・服用している患者さんに発生する可能性があります。低血糖になると動悸(ドキドキする)、発汗、めまいなどといった交感神経症状が始まり、さらに血糖値が低下すると、意識レベルが低下し、最終的には昏睡から死に至ることもあります。2023/03/13 9:44交感神経症状にすぐ気づけるように配慮しましょう初診時5慢性腎臓病(CKD)・透析の患者さん(P44・45掲載)﹇監修﹈大渡凡人特集1に掲載されたDHが確認すべき有病者の注意項APPE_P034-049_DH04_toku1.p9.pdf疾患の全体像37高血圧治療ガイドライン(JSH2019)における、合併症や併存症のない高血圧で使用される薬剤を示します(すべて商品名)。カルシウム拮抗剤ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)ACE阻害薬利尿薬配合錠治療抵抗性高血圧の場合に追加で処方されるもの早朝高血圧に処方されるものイルトラ、カルデナリンIllustration:中川視保子 わが国の高血圧治療ガイドラインは2019年に改訂されました(JSH2019)5。高血圧の基準となる血圧は140/90mmHg以上と変わりませんが、血圧を下げる目標値が変更され、75歳以上、脳血管障害、慢性腎臓病(CKD)をもつ患者さんでは140/90mmHg未満に下げるのが目標となりました。それ以外の人で 高血圧緊急症を起こさないために重要なことは医師による適切な血圧コントロールと痛みや恐怖感などのストレスを与えないことです。歯科診療では高血圧緊急症を起こさないように患者さんの血圧を事前に把握することと、ストレスを与えないことがもっとも重要です3。歯科診療で避けることAPPE_P034-049_DH04_toku1.p10.pdfは130/80mmHg未満が目標で、どちらも低くなりました。なお、米国心臓学会・米国心臓協会(ACC/AHA)の高血圧基準は2017年に130/80mmHg以上に引き下げられています6。将来的にはわが国の基準も見直される可能性があります。April 2023 vol.472023/03/13 9:4443今号の特集1「有病者チェックUPDATE」に掲載された有病者に対する初診時、歯科処置時にDHが確認しておくべき事項について疾患別にまとめました。医療面接時などにご活用ください。[監修]大渡凡人(九州歯科大学リスクマネジメント歯科学分野口腔保健・健康長寿センター教授[兼任]・歯科医師)すべての患者さんすべての有病者に対して、やさしい声かけをするなど痛みや恐怖感などのストレスを最小限にするよう心がけてください。使い方目をまとめました。コピーまたはDLしてお使いください。DH04_furoku.indd 1歯科衛生士2023年4月号とじ込み付録 ©QPC2023/03/13 8:58DHが確認すべき主なポイントがわかる 糖尿病治療薬のうち、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は心不全や腎不全の治療効果があることが判明しました32~35。このため、現在では適応が心不全や腎不全に広がり、糖尿病ガイドラインにおいても優先順位が高くなっています。さらに、SGLT2阻害薬は重篤な肺疾患である慢性閉塞性肺疾患(COPD)にも有効だったという報告が最近発表されました36。一方、血糖値を持続的に測定する装置(CGM)や持続的にインスリンを注入するインスリンポンプ療法は、世界で著しく普及しています37,38。わが国においても少しずつ用いられるようになってきました。 また、糖尿病は、新型コロナウイルス感染症の重症化リスク因子であるといわれています39,40。もっとも高く、ついで②、③の順です。これらの薬剤を服用あるいは使用している患者さんでは、空腹時の治療は低血糖を引き起こしやすくなるので、避けるようにしましょう。インスリン抵抗性の改善効果を目的とする薬剤ビグアナイド薬チアゾリジン薬メトグルコ,グリコランアクトスインスリン分泌低下を改善する薬剤グラクティブ,ネシーナ,トラゼンタ,テネリア,オングリザ,エクア,スイニー,ザファテック,マリゼブスルホニル尿素薬(②)グリミクロンHA,アマリールα-グルコシダーゼ阻害薬グルコバイ,ベイスン,セイブル速効型インスリン分泌促進薬(③)SGLT2阻害薬GLP-1受容体作動薬インスリン(①)+GLP-1受容体作動薬食後の高血糖を抑制する薬剤グルファスト,スターシス,ファスティック,ナテグリニド,シュアポストスーグラ,フォシーガ,アプルウェイ,デベルザ,ルセフィ,カナグル,ジャディアンストルリシティ アテオス,ビデュリオン,ビクトーザ,バイエッタ,リキスミアレベミル,トレシーバ,ランタスXR,インスリングラルギンBS,ライゾデグ,ヒューマログミックス,ノボラピッド30ミックス注フレックスペン,ヒューマログ,ノボラピッド,フィアスプ,アピドラゾルトファイインスリン(①)冷汗、動悸、不眠など。目安となる血糖値<70mg/dL100mg/dLYes帰宅を許可必要な場合は一次救命処置交感神経症状が出現した時点で発見し、意識混濁等が出現する前に経口で糖質投与を行う。(文献31より引用改変)P034-049_DH04_toku1.indd 42DPP-4阻害薬P034-049_DH04_toku1.indd 362023/03/13 9:44有病率全年齢層10%弱高齢者(65歳以上)15%強P034-049_DH04_toku1.indd 43とじ込みDL付録全身疾患別チェックリスト1高血圧の患者さん(P36・37掲載)お薬手帳の有無・内容を確認する血圧・脈拍・SpO2を測定する血圧>180/120mmHg*▶医師に降圧を依頼する血圧>180/120mmHg*▶歯科処置は中止し、医師に降圧を依頼する悪心、嘔吐、痙攣、意識障害をともなう著しい血圧上昇▶高血圧緊急症を疑い119番ワルファリン、直接経口抗凝固薬(DOACs)の処方を確認する脈拍数>120回/分*▶医師にコントロールを依頼する(原則として)ワルファリンあるいはDOACsの服用は止めない出血をともなう歯石除去は少しずつ、止血を確認しながら行う抗血小板薬の処方を確認する心筋梗塞の発症時期を確認する(原則として)抗血小板薬の服用は中止しない心筋梗塞後2ヵ月以内は応急的処置を除き歯科処置は延期するHbA1cを確認する糖尿病性腎症(糖尿病による慢性腎臓病)の有無と重症度を確認するインスリン、スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬が 処方されているか確認する▶処方されていたら低血糖に注意する低血糖による交感神経症状を確認したら、砂糖入りジュースやブドウ糖を服用させる糸球体濾過量を確認する原因疾患(糖尿病など)を確認する(透析患者さん)透析曜日を確認する鎮痛剤が必要な場合はアセトアミノフェンが選択されているか確認する(透析患者さん)歯科処置は透析翌日に行う(透析患者さん)カフはバスキュラーアクセスのない腕に巻く(透析患者さん)体位変換は段階的に行う機能障害(運動機能障害、嚥下障害など)を評価する併存疾患(高血圧、心房細動など)を確認する背景疾患(とくに高血圧)に対応する脳血管障害の前兆と警告症状であるFASTが現れたら119番2心房細動の患者さん(P38・39掲載)初診時歯科処置時3 虚血性心疾患(狭心症・ 心筋梗塞)の患者さん(P40・41掲載)歯科処置時初診時歯科処置時初診時4糖尿病の患者さん(P42・43掲載)歯科処置時初診時6 脳血管障害(脳卒中)の 患者さん(P46・47掲載)歯科処置時歯科処置時*目安であり、この値以下でも対応が必要な場合があります。初診時(文献41より引用改変)April 2023 vol.472023/03/13 9:44有病率全年齢層25%強高齢者(65歳以上)45%以上362023/03/13 9:44●著しく血圧が高い場合は治療の中止を強く推奨●血圧が治療中にしばしば著しく上昇した場合も治療の中止を考慮する*治療をやめるべき著しい血圧上昇がどのくらいなのかは明確ではありませんが、血圧が180/120mmHg以上になれば治療をやめることを強くお勧めします。160/100mmHg以上にしばしば上昇する場合も中止していいのかもしれません。エビデンスがないので難しいところです。*他の疾患に比べてとくに高い結果でした1。高齢者ではとくに注意が必要です。交感神経症状 インスリン、スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬を使用あるいは服用している患者さんでは低血糖の既往をうかがい、あれば頻度、症状、対応を確認しましょう。そのうえで低血糖の予防を行います。すなわち、いつもどおり食事し、決められた量の血糖降下薬を使用・服用して来院するよう、本人あるいは家族に指導しましょう。低血糖になると交感神経症状(動悸、発汗、めまいなど)が現れます。交感神経症状を自覚したら、ただちに申告してもらうよう依頼しましょう。 もし、交感神経症状の申告があったり、(申告がなくても)低血糖を疑う症状が認められたりしたら、直ちに血糖測定を行いましょう。低血糖が確認されたら、ブドウ糖(あるいは砂糖)を含む飲み物などを飲んでもらいます。もし、意識が減弱し、経口摂取が困難になった場合は119番に連絡しましょう。慢性合併症では、慢性腎臓病(CKD)や虚血性心疾患、脳血管障害などがとくに重要です31。また、歯周病と糖尿病の関連が指摘されています。良好な口腔衛生状態を維持するようDHとして積極的に介入しましょう。● いつもどおり食事し、決められた量の血糖降下薬を使用あるいは服用して来院するよう、患者さん本人あるいは家族に指導する●低血糖が確認されたら、ブドウ糖(あるいは砂糖)を含む飲み物などを飲んでもらう●意識が減弱し、経口摂取が困難になった場合は119番に連絡経口摂取は可能か?可能なら血糖値測定Yes糖質を投与No意識レベルの低下あるいは眠気、錯乱、奇異行動など症状は改善したか目安となる血糖値<90~No42くり深呼吸してもらうことにより、ある程度の血圧降下が期待できます。また、前立腺肥大のある高齢の男性や降圧利尿薬*2を服用している患者さんは、尿意を我慢することで、血圧が上昇する場合があります。こういった可能性がある場合は、患者さんのプライドを傷つけないように、紙などに書いて伝えるなどして尿意を確認したうえで排尿してもらいましょう。 これらの対処を行っても、血圧が高いままであれば、治療を中止し、歯科医師と相談したうえで、医師に降圧を依頼したほうがよいと思います。もし、著しい血圧上昇だけでなく、悪心、嘔吐、痙攣、意識障害などをともなう場合は高血圧緊急症の可能性があります。ただちに119番に連絡しましょう。*2 降圧利尿薬:尿を出すことにより血圧を下げる薬。知っておきたい全身疾患糖尿病糖尿病高い血糖値が続くことにより腎臓などに重篤な合併症を引き起こす 膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンが減少したり、インスリン抵抗性が上昇(=インスリンが効きにくくなる)したりすると、高い血糖値が持続するようになります。このような病態を糖尿病といいます31。糖尿病は、慢性腎臓病、虚血性心疾患、脳血管障害など重篤な合併症を引き起こしうるため、血糖値を下げる治療が必要となります。糖尿病は世界的に増加しており、歯科外来でも糖尿病の患者さんが一段と増えることが予測されます。 基本的な分類は1型と2型です。インスリン欠乏による1型は、すべての糖尿病患者さんのうち10%未満で、治療にはインスリンの補充が必須です。一方、相対的なインスリン分泌量の低下とインスリン抵抗性の上昇によるものを2型といい、すべての糖尿病患者さんの90%以上を占診療時に配慮すべきこと疾患の全体像診療時に配慮すべきことストレスが減るような優しい声かけも有効 初診時には必ず血圧を測定し、異常に高ければ医師にコントロールを依頼します。血圧の測定は、上腕で測る血圧計を使いましょう。手首血圧計は誤差が大きくなるため、高血圧ガイドラインでも勧められていません4。 治療開始前の血圧が低くても、治療中に急激に血圧が上昇することがあります。このような変化は高齢者に多く認められます。痛みや恐怖感などのストレスが原因となることが多いので、ストレスを減らす工夫が必要です。DHによる患者さんの気持ちに寄り添ったやさしい声かけは患者さんのストレスを減らすのに有効です。 治療開始前の血圧が著しく高い場合は、治療を中断し、歯科医師に相談したうえで、医師に血圧のコントロールを依頼しましょう3。ただし、痛みがあり緊急の対応が必要な場合は、最小限の治療を行います。血圧上昇時には、ゆっ35P.44)(P.42).p2.pdf『歯科衛生士』ダイジェスト見本誌2024腎臓病D)・透析脳血管障害(脳卒中)(P.46)改訂により目標とする血圧が厳しくなったインスリンなどを使用している場合は低血糖が起きやすいので注意 歯科治療でもっとも注意すべき急性の合併症が低血糖です31。低血糖は、インスリン(①)やスルホニル尿素薬(②)、速効型インスリン分泌促進薬(③)を使用・服用している患者さんに発生する可能性があります。その可能性は①が処方されやすい薬剤一覧糖尿病の90%以上を占める2型糖尿病に使用される薬剤を示します(すべて商品名)。APPE_P034-049_DH04_toku1.p3.pdfAPPE_P034-049_DH04_toku1.p4.pdfとじ込み&DL付録全身疾患別チェックリスト有病者に対する初診時、歯科処置時にDHが確認しておくべき事項について疾患別にまとめています。詳細は、2023年4月号をご覧ください。疾患の全体像から、歯科診療時に配慮すべきこと・避けること、注意点まで、コンパクトに整理されています。処方されやすい薬剤一覧も載せているので、患者さんの情報と照らし合わせて活用できます!

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