QDT ダイジェスト見本誌2020
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6QDT 2020 ダイジェスト見本誌 セラミッククラウンでの中切歯単冠補綴は、歯科技工士にとって審美的にもっとも難易度が高い補綴治療のひとつであると言える。臨床経験を積んだ歯科技工士でも常に最高の結果を出し続けることは困難であり、当然、日々の臨床の中では思うような結果を生み出せないようなケースも存在する。大切なのは、なぜ好ましくない結果になってしまったのかを分析し、そこからどのようにリカバリーをするかである。 そこで本企画では、名古屋臨床セラミックスクール「Five hype glory」を主宰する南沢英樹氏(Dental Lab SCALA)/三浦大輔氏(ハナキューデンタルラボ)/松田 健嗣氏(greKen dental lab)/久保田紘基氏(クボタLab.)の4名の歯科技工士に中切歯単冠補綴の失敗事例をご提示いただき、そこからいかにリカバリーしたのかをご紹介いただく。中切歯単冠補綴における失敗からのリカバリーFeature article #2久保田紘基クボタLab.岐阜県岐阜市殿町1-12松田健嗣greKen dental lab愛知県名古屋市中川区柳森町2708 板倉ビル3F三浦大輔ハナキューデンタルラボ愛知県名古屋市中川区十番町4-9アソシエビル 5F南沢英樹Dental Lab SCALA愛知県名古屋市中川区十番町4-9アソシエビル 5F企画趣旨2Bホール午前10/18(日)講演者論文p061-078_QDT01_toku2.indd 612019/12/10 9:3496総義歯によって機能を回復するためには、「吸着させるための義歯床縁形態」と「咬合を安定させるための人工歯排列ポジション」が重要である。審美的回復においては顔貌との調和が重要である。日常臨床において達成すべき具体的事項は、「顔貌正中との一致」「顔貌に合わせた人工歯形態の選択」「自然感のある人工歯の排列」「微笑時に露出する歯肉部分の色調表現とその明るさ」である。機能回復と審美回復が同時に達成された総義歯は、患者自身だけではなく第三者からの客観的な評価も高まることから、より患者満足度が高くなる。図1 総義歯製作における筆者の考え。本連載において紹介させていただく内容は、これらを達成するために考えていったものである。 つのポイントを押さえてシンプルに高精度の総義歯を製作する─保険・自費を問わず活用できる、工程の中で補正していく総義歯製作の考え方─連載五十嵐 智 歯科技工士・correct-design/埼玉県さいたま市大宮区吉敷町1-91 成田ビル1F第1回 総義歯治療の目的と押さえておきたい3つのポイント34Fホール午前10/18(日)講演者論文QDT Vol.45/2020 January page 0096p096-106_QDT01_sougishi.indd 962019/12/10 9:06中切歯単冠修復における失敗からのリカバリー南沢英樹/三浦大輔/松田健嗣/久保田紘基「咬合器付着」「咬座印象」「マウント」で語る総義歯製作!2020年1月号Feature Article#2だれにでもある「前歯部単冠のやり直し」。そんなとき、デキる歯科技工士はどのような視点で、どうリカバーしているのか? 4者4様のテクニックを学ぶ!2020年新連載紹介その③●この他、新連載「失敗しない総義歯臨床テクニック ~診療室とラボとの連携~」(松田謙一/大竹裕之)、「歯科訪問診療のやりがい よもやま話」(廣瀬知二)、「できる人はココが違う! 歯科技工士のためのビジネスマナー講座」(山下茂子)にもご注目ください!Failure case70Feature article #2図3-1 初診時正面観。図3-3 診断用ワックスアップ。下部鼓形空隙を封鎖するため、近心切縁付近をわずかに舌側に傾斜させることで反対側と重ね、反対側より歯軸を起こしながら近心歯頚部を正中に寄せた。図3-2a、b 模型を観察すると、明らかに₁が前突していること、₁₁が重なり₁の歯冠長が短いことがわかる。図3-4 筆者は気づいたことや提案したいことを提案書としてまとめ、診断用ワックスアップとともに歯科医師に提出している。担当医:水野 肇先生(中部労災病院歯科口腔外科・口腔インプラント科)症例概要:患者は40代女性。1の審美改善を主訴に来院された。模型を咬合面から観察すると、1の前突が確認できる。次に正面から確認すると、11が重なり、また製作方針:診断用ワックスアップを行うと、反対側同名歯の歯軸に合わせて中切歯をラッピングしない場合、やはり正中の下部鼓形空隙が大きく空いてしまうことが分かる。それを踏まえ、近心切縁付近をわずかに舌側に傾斜させることで反対側と重ね、反対側より歯軸を起こしながら近心歯頚部を正中に寄せることで下部鼓形空隙を封鎖するよう工夫した。また、短かった歯冠長はクラウンレングスニングを提案し、了承を得た。筆者はこういっ1の歯冠長が短い。これが審美性を損ねている要因のひとつだと思われる。また、現状では1が反対側よりも舌側に位置していることで正中の下部鼓形空隙は封鎖されているが、重ねずにクラウンを製作すると大きく空いてしまうと予想される。た内容を提案書としてまとめて診断用ワックスアップと一緒に提出し、歯科医師に確認してもらうようにしている。 診断用ワックスアップと提案書の内容に対する了承を患者から得て、歯科医師によりクラウンレングスニングが施術された。短かった歯冠長が改善された後、シェードテイキングをしていただいた写真をもとにジルコニアセラミッククラウン(ノリタケカタナジルコニア+セラビアンZR)の製作を行った。色相はA系統と判断した。三浦大輔透明感が与える影響とそれを表現するためのアプローチabQDT Vol.45/2020 January page 0070p061-078_QDT01_toku2.indd 702019/12/10 9:3571中切歯単冠補綴における失敗からのリカバリー図3-8a、b 指状構造の黄色みが少し不足していることで明るく見えることもあるが、赤マーク部の透明感が再現されていないことで、さらに切縁付近の白さを助長していると分析した。グレースケールに置き換えると赤マーク部の透明感の不足が明確に確認できる。図3-6a、b 本ケースは、クラウンレングスニングにより歯冠長は改善されたが、元々舌側に位置していたマージンがさらに2.5mm程度舌側に移動することとなった。目標歯との出具合を積極的に合わせることはせず、診断用ワックスアップから2mm程度唇側に出すことで審美的な調和が得られると判断した。 経験則になってしまうが、本ケースのように歯頚部側を唇側に出し、さらにマージンが縁下深いタイプは、・歯肉色のピンクの色調の影響を受ける・比較的光の透過度の高い陶材の築盛量が多く、明度が低下する傾向にある これらを踏まえ、①オペーシャスボディを積極的に使用し、光の透過のコントロールを行うこと② ジルコニアフレームの調整をよりシビアに行い、ポーセレンルームの均一化を考慮することを製作する上での最重要ポイントとした。図3-5a、b 明度に関しては全体的にノリタケシェードガイドのA2~A3であることを確認した。そして歯冠中央あたりに帯状にA1程度の明るい部分を確認し、その切縁寄りに帯状のA3程度の透明層を確認した。なぜ失敗したのか?図3-7 口腔内評価。全体的に明度が高く、特に歯冠中央から切縁側にかけて白いことが確認できる。aaabbbQDT Vol.45/2020 January page 0071p061-078_QDT01_toku2.indd 712019/12/10 9:3598連載 3つのポイントを押さえてシンプルかつ高精度に総義歯を製作する図3 筆者が考える総義歯治療における歯科医師・患者・歯科技工士のゴール。図4 総義歯セット時に達成されるべき10項目の具体的事項とその優先順位。 まずは、筆者が考える総義歯治療における歯科医師・患者・歯科技工士のゴールを図3に示す。また、図3に加えて、審美的な要素まで含めて細分化された項目が図4になる。的確な診査・診断に始まり、患者の要望を取り入れながら歯科医師と歯科技工士が情報を共有してディスカッションを行えば、患者満足度の高い総義歯を製作することができる。1.痛くなく、吸着・安定した状態で機能・審美回復が達成された状態2.咀嚼時に安定して咬むことができる3.その状態が長く持続できる図5a 動画。保険の義歯。上下顎義歯の吸着・安定が得られている。図5b 動画。aと同一症例。下顎義歯が開口時・大開口時に浮き上がることがない。また、口輪筋による把持を外した状態でも義歯が安定している。1.上顎義歯の吸着・安定が得られていて落ちることがない(図5a)2.下顎義歯の吸着、または開口時・大開口時に義歯が浮き上がることがない(図5b)3.上下顎義歯の咬合安定が得られている 総義歯治療成功への第一関門であり、この項目は必ず達成されなければならない。義歯製作における基本である印象採得・辺縁形成が適切に行えていたことの証明である。10.患者が装着後に笑顔になり、噛める義歯の喜びを第三者も感じとることができる 上記のすべての項目が達成されることによって初めて得られるもので、義歯製作を行う歯科技工士にとっての成績表ともいえる。この喜びを共有することが、歯科技工を長く続けていくうえで必要なことなのかもしれない。7.上下顎義歯の正中が顔貌正中と一致している8.選択した人工歯が患者の顔貌と調和している9.微笑時に露出する適切な人工歯の長さや歯肉部分の明るさが付与され、違和感のないスマイルに仕上がっている 上記2項目が達成されて機能回復が行える総義歯には、付加価値として審美性の付与と顔貌との調和が求められる。この項目は歯科技工士の経験と技術の見せどころでもある。4.上下顎義歯が咬合器上で付与した接触点と同じ位置で口腔内でも接触している5.前方・側方運動時に義歯が脱離・転覆することなく機能している6.口輪筋による把持を外した状態でも義歯が安定している(図5b) 上記項目が達成されたうえで、咬合採得が正確に行えていたこと、適切な人工歯排列ポジションを設定していたこと、適切な咬合接触点を付与していること、精密な床用レジンの重合操作が行えていたことの証明である。優先順位高筆者が考える総義歯治療のゴールMovieMovieabQDT Vol.45/2020 January page 0098p096-106_QDT01_sougishi.indd 982019/12/10 9:0699第1回 義歯治療の目的と押さえておきたい3つのポイント図6a~d 図5と同一症例。大開口時の義歯の浮き上がりがない、適正な咬合接触点の付与、顔貌正中との一致など、すべての要件を満たすことが重要である。バックナンバーの動画閲覧方法バックナンバーをご覧になりたい方は、上部の「バックナンバー」をタップし、該当月を選んで誌面にかざして下さい。カメラ画面が起動しますので、これを「QuintMobile」マークのついたページにかざすと動画が起動します(再生開始まで、数秒かかります)。3のついた写真にかざすアプリをダウンロード1本サービスは、iPadほかタブレット端末でもご使用になれますが、iPadでご利用の際はアプリ検索時の設定を「iPhoneのみ」としてください。●iPadでご利用の際の注意点※iOS9の場合iPhoneをご利用の方は、App Storeにて「QuintMobile」(無料)を検索し、インストール。Androidをご利用の方は、Google Playにて「QuintMobile」(無料)を検索し、インストール。QuintMobile検索「QuintMobile」は無料ですが、動画再生にデータ通信料が発生します。パケット定額サービスでのご利用を推奨します。なお、動画再生のサービス提供期間は、本誌発刊月から原則2年間となります。「QuintMobile」(3.0.1)バージョンアップしました!※動画閲覧方法の詳細は小社HP内「QuintMobileの使い方」をご覧下さい。https://www.quint-j.co.jp/web/AR_DL/verup.php誌面で紹介しているテクニックを動画でわかりやすく解説します。メニューから該当誌を選ぶ2アプリを起動すると、メニュー画面が起動します。見たい動画の掲載誌を選択します。QuintMobile?ザ・クインテッセンス2017年1月号QuintessenceDENTAL Implantlogy2017年1月号acbdQDT Vol.45/2020 January page 0099p096-106_QDT01_sougishi.indd 992019/12/10 9:06 つのポイントを押さえてシンプルに高精度の総義歯を製作する―保険・自費を問わず活用できる、工程の中で補正していく総義歯製作の考え方―五十嵐 智3QDT ―もちろん、歯科技工士向けにも充実の情報を。

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