ザ・クインテッセンス ダイジェスト見本誌2024
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1特 集−−−+−++−−−+−3症例2(自発痛)患者:35歳,男性患歯:₆主訴:3日前からズキズキしだして,ロキソニンを服用しているが,今は効かなくなっている.冷たい水を飲むと少し痛みが落ちつく診断:症状の強い症候性不可逆性歯髄炎,無症候性根尖性歯周炎治療選択:抜髄図8a図8b図8c図8d図8e自発痛冷痛温痛咬合痛打診痛根尖部++生活EPTパルパー修復物症例3(症状がなく,歯髄が失活している)圧痛患者:35歳,女性−患歯:₆主訴:過去に治療した詰め物の周りが黒ずんでいて気になっている.見た目の改善のためにやり直しを生活メタルインレー図8a~c 初診時における₆の口腔内およびデンタルエックス線写真とCT画像.インレー下にう蝕治療を行った形跡があり,CBCTでは根尖透過像が確認できる.図8d 現症.歯髄生活試験に反応はあるが,自発痛,温痛,咬合痛があり,打診に強く反応した.図8e 症状の強い症候性不可逆性歯髄炎と診断し,抜髄を選択.自発痛−冷痛打診痛−根尖部圧痛根尖部透過像瘻孔■患者への説明内容 今日行った検査によって,歯髄は生きていることがわかっていますが,今回,〇〇さんが感じて可逆性歯髄炎いる痛みの程度から考えると,歯髄は深いむし歯によってかなりのダメージを受け,すでにもう元気な状態には戻れない,ほぼ死にかけている状態になっています. いま重要なことは,歯髄を残すことではなく,死にかけて痛みを出している歯髄を取り除き,生活に支障がある症状をなくしていくことです. 今回の治療では,歯髄を除去する治療をしたいと考えています.不可逆性歯髄炎 歯髄を取り除くことは,歯を駄目にするわけではありません.死んでしまった歯髄が中で腐ってしまい,周囲の顎の骨に炎症が起こるなど,次の問題を起こさないようにする重要な歯を残す治療可逆性歯髄炎です.同意→“抜髄の説明”に移行図8f 患者への説明内容.■患者への説明内容 〇〇さんは,現在まったく症状を感じておりませんが,これは,先ほどの歯髄の検査で,健康な歯との比較でもおわかりのように,深いむし歯と過去の治療の刺激にさらされた歯髄が,痛みもなく死んでしまっていることが原因です.冷たい刺激に加え,電気の刺激にもまったく反応がなかったことが診断の大きなポイントです. 歯髄を死んでしまったままにしておくと,中で腐っていき周囲の骨が炎症を起こし,徐々につらい痛みが生じることがあります.すでに,レントゲンで根の周りにその徴候がみられます. 症状がないため,治療に積極的に踏み込めないかもしれませんが,今回,詰め物の見た目の改善を行うためには,根の周りの骨の炎症を治療するために,死んでしまった歯髄を除去する治療が必要になります.同意→“感染根管治療の説明”に移行図9f 患者への説明内容.足なく行い,診断を行う.それを組み立てて説明を行うまでの数分間が,患者へのプレゼンテーションの準備時間となる.短い診療時間を効率的に使うためにも,簡潔にまとめられる説明力を身につけることが重要である.本項では,歯髄保存,抜髄の説明のなかでとくに重要な3つのシチュエーションについて,症例を用いて比較したい(図7~9).症例1(症状の強い可逆性歯髄炎)患者:25歳,女性患歯:₆主訴:冷たい,温かいものを食べると痛みが強く,食事が摂りにくい診断:症状の強い可逆性歯髄炎,正常根尖組織治療選択:非選択的う蝕除去による歯髄保存自発痛冷痛温痛打診痛根尖部++EPT修復物生活CR不適合圧痛−図7a図7b図7c図7d図7a,b 初診時における₆の口腔内およびデンタルエックス線写真.図7c 現症.EPTで反応があり,生活であるが,食事に影響をきたす強い冷痛がある.自発痛はない.図7d 症状の強い可逆性歯髄炎と診断し,非選択的う蝕除去による歯髄保存を選択.■患者への説明内容 今回の検査では,レントゲンで非常に深いむし歯があることがわかりました.歯髄は検査に反応があり,生きている可能性が高いです. ただ,現時点でお食事に支障が出るほどの痛みを感じていらっしゃることから,その原因であるむし歯を残さず除去して治療することが必要です.歯髄は1つの臓器と考えると,外からの検査だけでははっきりとしたダメージの程度はわかりませんが,ズキズキした痛みにまで至っていないことから,まだ残せる可能性はあると考えます. 今回はむし歯を取りきることで歯髄を残す治療を行いたいと考えています.しかし,すでにむし歯の刺激で弱ってきている歯髄は,時間の経過とともに徐々に死んでいってしまう可能性もあります.歯髄を残すことは価値のある治療ですが,そのような経過をたどることもご理解のうえ,治療の同意をいただきたいと思います.同意→“非選択的う蝕除去による歯髄保存治療の説明”に移行図7e 患者への説明内容.53図10a図10b図10c図10d図10eしたい.10年以上前に治療したが,今まで痛みが出たことは一度もない診断:歯髄壊死,無症候性根尖性歯周炎治療選択:感染根管治療Phase2,3 “歯髄保存の各治療法”の説明 ディシジョンツリーでは,歯髄の診断を終えたら,次にどのようにう蝕を除去し,歯髄保存を行うかを選択する.う蝕除去法は,ESEポジションペーパーで再分類された選択的う蝕除去と,非選択的う蝕除去を採用した. 選択的う蝕除去は,露髄の可能性のある深在性う蝕において,意図的にう蝕を残し,露髄を回避して歯髄を保存する治療である.一方で,非選択的う蝕除去は,窩洞内のう蝕をすべて取りきり,歯髄を保存する治療法である.る.段階的にう蝕を除去するステップワイズエキスカベーションを選択した場合,残置し,硬化したう蝕を除去するために,リエントリーが必要となる. そのため,患者本人もしくは保護者に対し,長期間の経過観察期間があり,リエントリーを終えて初めて治療が終了することを説明し,理解してもらう必要がある(図11).リエントリーに訪れないことで,治療が失敗に陥ってしまうリスクも報告されている7.リエントリーのない1回法は,ESEのポジションステートメントでselective caries removal in one stageと新たに分類されたが,リエントリーがないことは,患者が再来院しないリスクを防ぐ可能性があるが,う蝕を残置したままでいいのかどうかは,まだ無作為化比較研究の結果が少なく,わかっていない8.図9a図9b図9c図9a~c 初診時における₆の口腔内およびデンタルエックス線写真とCT画像.歯髄に近接した二次う蝕と根尖透過像を認める.EPTパルパー修復物失活失活CR不適合図9d図9e図9d 現症.臨床症状はほとんどないが,歯髄生活試験に反応はなく,根尖部には透過像が存在する.図9e 歯髄壊死と診断し,感染根管治療を選択.図10 術前の臨床症状がほとんどない深在性う蝕は,選択的う蝕除去の適応が可能となる.■説明のポイント●2回法は長い経過観察後にリエントリーが必要な治療であること●長期的な経過観察後に来院可能であるかを確認●う蝕を残す治療であり,症状の強い歯に行うと術後の症状の悪化を招くため,症状のない症例が適応であること9●仮封が壊れ,残したう蝕に食餌性炭水化物の漏えいが起こると,う蝕は再度進行する10.長期にわたる経過観察中の管理の説明も重要図11 患者への説明のポイント.1)可逆性歯髄炎の診断に対し,選択的う蝕除去で露髄させず歯髄を保存するルート 選択的う蝕除去(図10)で露髄を避ける治療において大きなポイントになるのが,適応患者の選択であ1特 集デンタル口腔内所見歯髄の生死の診断臨床症状歯髄の診断選択的う蝕除去露髄させないう蝕除去法露髄の有無の選択治療法の選択可逆性歯髄炎非選択的う蝕除去露髄なし1回法:Selective cariesremoval in one stage2回法:ステップワイズエキスカベーション間接覆髄Class2 直接覆髄部分断髄歯頸部断髄抜髄抜髄間接覆髄症状なしもしくは軽度歯髄に近接した深い象牙質う蝕(Deep caries)生活無症候性不可逆性歯髄炎可逆性歯髄炎非選択的う蝕除去露髄露髄なしClass2 直接覆髄部分断髄歯頸部断髄抜髄のみ中等度〜強い症状あり露髄失活歯髄壊死症候性不可逆性歯髄炎歯頸部断髄温痛抜髄感染根管治療デンタル口腔内所見歯髄の生死の診断臨床症状歯髄の診断う蝕除去法の選択露髄の有無選択的う蝕除去露髄させない歯髄に近接した深い象牙質う蝕(Deep caries)症状なしもしくは無症候性軽度生活非選択的う蝕除去露髄なし露髄露髄なし中等度〜強い症状あり症候性不可逆性歯髄炎露髄非選択的う蝕除去のみ失活歯髄壊死the Quintessence. Vol.40 No.10/2021—24415152治療法の選択1回法:Selective cariesremoval in one stage2回法:ステップワイズエキスカベーション間接覆髄Class2 直接覆髄部分断髄歯頸部断髄抜髄抜髄間接覆髄Class2 直接覆髄部分断髄歯頸部断髄抜髄歯頸部断髄抜髄感染根管治療the Quintessence. Vol.40 No.10/2021—2442the Quintessence. Vol.40 No.10/2021—2443デンタル口腔内所見歯髄の生死の診断臨床症状歯髄の診断う蝕除去法の選択露髄の有無治療法の選択可逆性歯髄炎選択的う蝕除去露髄させない1回法:Selective cariesremoval in one stage2回法:ステップワイズエキスカベーション間接覆髄Class2 直接覆髄部分断髄歯頸部断髄抜髄抜髄間接覆髄非選択的う蝕除去露髄なし症状なしもしくは軽度歯髄に近接した深い象牙質う蝕(Deep caries)生活無症候性不可逆性歯髄炎露髄露髄なし可逆性歯髄炎非選択的う蝕除去のみ中等度〜強い症状あり症候性不可逆性歯髄炎露髄Class2 直接覆髄部分断髄歯頸部断髄抜髄歯頸部断髄抜髄感染根管治療失活歯髄壊死50the Quintessence. Vol.40 No.10/2021—2440図1 介入が必要な状態だからこそ,症状の少ないケースでは十分に説明することが重要となる.図2 歯髄保存における治療選択のディシジョンツリー.Phase1:歯髄の診断.Phase2:う蝕除去法の選択.Phase3:非選択的う蝕除去後の歯髄への対応(*3より引用・改変).デンタル口腔内所見歯髄の生死の診断歯髄に近接した深い象牙質う蝕生活(Deep caries)失活臨床症状歯髄の診断可逆性歯髄炎非選択的う蝕除去症状なしもしくは軽度無症候性不可逆性歯髄炎非選択的う蝕除去可逆性歯髄炎中等度〜強い症状あり症候性不可逆性歯髄炎歯髄壊死う蝕除去法の選択露髄の有無選択的う蝕除去露髄させない露髄なし露髄露髄なしのみ露髄治療法の選択1回法:Selective cariesremoval in one stage2回法:ステップワイズエキスカベーション間接覆髄Class2 直接覆髄部分断髄歯頸部断髄抜髄抜髄間接覆髄Class2 直接覆髄部分断髄歯頸部断髄抜髄歯頸部断髄抜髄感染根管治療the Quintessence 2024 ダイジェスト見本誌①う蝕が象牙質に達している時点で,細管を通した何らかの障害が歯髄に起きている可能性が高い②歯の欠損に対しての修復処置を必要とする状態治療介入が必要であり,その治療の選択肢は多岐にわたる:Phase1“歯髄の診断”:Phase2“う蝕除去法の選択”:Phase3“非選択的う蝕除去後の歯髄への対応”患者と共有しておきたい知識やディシジョンツリーに沿った患者説明の内容について解説■深在性う蝕の治療で術者と患者が双方に理解しておくべき2つのポイント■歯髄保存における治療選択のディシジョンツリー症状の有無にかかわらずこの論文を無料で全文読む!

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